橋下徹氏は2015年大阪都構想1回目の住民投票で負けた時の記者会見で「どうして負けたと思うか」と聞かれ「都構想が間違っていたからでしょう」と答えた。これ以降、「勝った方が正しく、敗けた方が間違っていたという“底の浅い”政治理解がこの10年間急速に進行している」と、哲学者の内田樹氏は言う。同氏と政治学者・白井聡氏の新著『新しい戦前 この国の“いま”を読み解く』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し、民主主義についての議論とそれに基づく日本とアメリカの関係性を紹介する。
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白井聡(以下、白井):今は国対政治が低レベルになっています。与野党間でまともな人間関係があまり成り立っていないこともあって「議論」ができない状況になっているように見えます。
内田樹(以下、内田):議論というのは、一方が他方を論破してけりをつけるというものではないし、ウィン-ウィンの正解に至るというものでもない。どちらかというと「当事者全員がみんな等しく不満足な解」に落とし込むものです。民主主義的な意思決定ってそういうものなんです。採決が終わったあとに、多数を制した方が大笑いをしていて、敗けた方がこめかみに青筋を立てているというような議論はしてはいけない。会議が終わった時に全員が同じくらいに不満足な顔をして議場を出てくるというのが「よい民主主義」なんだと僕は思います。