見合い結婚の変化
戦後は恋愛結婚が普及し始めると同時に、見合い結婚も変質し始めます。特に、上流階級が見合いという名のもと、有無を言わせず「取り決め」で結婚を遂行していたのが、会う前でも断れるし、会ってからでも断れるという「断る自由」のある見合いを許容しだします。
つまり、戦後の見合い結婚というものは、恋愛結婚に限りなく近いわけです。紹介してくれるのが仕事の上役や親族というだけで、相手に会う前も会ってからも、交際を始めてからでも「断る」ことができます。
まだ世間的には、断ることは望ましくない。けれどもそれが可能になったがゆえに、たとえ見合い結婚でも「自分が選んだ相手と結婚したんだ」という感情を持てるようになったわけです。その意味では、戦前までの取り決め婚とはまったく違います。
この変化によって、恋愛はもちろん、見合いであっても結婚には愛情形成が必要という意識、つまりは好きな人と結婚するという意識が戦後に普及したのです。
もちろん、戦前にも見合いを断るというケースはありました。たとえば、谷崎潤一郎の小説『細雪』は戦中の大阪・船場の旧家・蒔岡家が舞台で、そこの四姉妹の暮らしぶりを、三女の雪子が何人もの見合い相手を断るというエピソードを軸に描いています。最初に、蒔岡家の条件をすべて満たす先方から断られて以来、年嵩のやもめであったりする見合い相手を雪子は断り続けるのです。この谷崎の名作は何度も映画やテレビドラマになっています。雪子は結局、華族の庶子という中年男性と結ばれるわけですが、市川崑監督の映画(1983年)の中で、ようやく雪子の結婚が決まったあと、姉がつぶやく「あの子、ねばりはったな」というセリフが印象的でした。「旧家の見合い」で谷崎は、戦前戦中のあの時代を描いたのです。