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 日本の食料自給率は38%と言われているが、種や肥料の海外依存度から厳密に見ていくと、10%に届かないと東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘氏は自身の著書で示している。経済的に見ても中国と戦争ができるわけないと考えられるが、「起こるはずのない戦争が起きたというのが歴史の現実」と政治学者の白井聡氏は警鐘を鳴らす。同氏と哲学者の内田樹氏との新著『新しい戦前 この国の“いま”を読み解く』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し、戦争に備えているふりをする日本について対談形式で紹介する。

【表】日本の穀物自給率はこちら

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戦争に備えるふりをする日本

白井聡(以下、白井):台湾有事に関して言えば、合理的に考えれば、中国と戦争なんてできるわけがありません。中国は輸出入とも最大の貿易相手ですから。通常、戦争の前には経済封鎖、経済的断交が起こります。その時点で日本経済は即死します。

内田樹(以下、内田):日本にはエネルギー、食料、医療品などの戦略的備蓄がありません。戦時の国民生活を支える備蓄をせずに、ただ軍備だけ増大している。「戦争ができる国」になることをアメリカが強く要望しているので、ただそれに服従しているだけです。服従すれば、アメリカの機嫌がよくなり、アメリカに好感される政権は長期安定が保証される。そういう国内的な事情での軍備の拡大です。国防予算だって、東アジアの地政学的環境について熟慮した末に、必要なもののリストを作って、それを積算して出した数字ではない。まず先に数字がある。それは「本当に戦争になったら」ということについては何のシミュレーションもしていないということです。これは断言していいと思います。

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戦争のシミュレーションをしてない日本