日米合同軍事演習(写真:UPI/アフロ)

 2023年、台湾有事の声が高まりアメリカと中国の覇権闘争が激化。「2022年12月に岸田政権が閣議決定した新しい安保関連3文書はアメリカとの綿密な擦り合わせのもとに出てきたことは確実」と政治学者の白井聡氏は言う。核攻撃のリスクも浮上し、日本では限りなく戦時中に近い緊張感が漂っている。同氏と哲学者・内田樹氏の新著『新しい戦前 この国の“いま”を読み解く』(朝日新書)では、台湾有事における今後のアメリカの対応が議論されている。同著から一部を抜粋、再編集し、紹介する。

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敵基地攻撃能力の実像

白井聡(以下、白井):まず、アメリカは台湾有事でどうするのかという議論を深めましょう。アメリカはいろいろな可能性を検討し、必要な時に必要なシナリオを選べるように事前に仕込んでおくということをする国だと思うのです。この観点から見ると、日本が敵基地攻撃能力を持ち、事実上の先制攻撃をできるようにしたのは、非常に大きな意味を持っていると思われます。

 どういうことか。日中でドンパチが始まった時にはアメリカが助けに来るはずである。来ないと「同盟国を見捨てるのか」という話になるから確かに大変なことになります。けれども、アメリカは助けないという選択肢を取れるようにしておきたいのです。どうしたらそれができるか。手を出した日本に正当性はないという状況を作ればいいわけです。

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内田樹

内田樹

内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数

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アメリカに依存する反撃能力