つまり、アメリカは梯子をかけて先に日本を上らせて、後から一緒に上ることもできるけれども、スパッと梯子をはずして知らん顔もできるわけです。「日本が勝手に国際法違反の先制攻撃をしただけで、そんな国を助ける義理はない」と言えるオプションを、アメリカは日本の新しい安保関連3文書、それに基づく岸田大軍拡を通じて仕込んだのではないでしょうか。
内田樹(以下、内田):なるほど、それは面白い仮説ですね。日本が勝手に国際法違反をしたということになると、日米安保条約を発動する責任はまぬかれることができる。そうですね、アメリカの賢い軍略家ならそれくらいのことは考えるかも知れない。
でも、仮に日本が国際法違反の先制攻撃をした場合でも、敵国から反撃してくる場所はどこかという問題があります。どこにミサイルが飛んで来るのか。当然ながら、本気の戦争だということなら、ミサイルが飛んでくるのは非戦闘員がいるところではなく、まずは米軍基地です。戦争なら当然反撃戦力が集中している米軍基地を叩く。でも、当然そこにはアメリカ市民がいる。米軍基地が攻撃されたときに、米軍兵士だけでなく、その家族や関係者を含めてアメリカ市民から多数の死傷者が出るということになると、これは「日本が勝手に始めた戦争だから、オレたちは知らない」と言い抜けるわけにはゆきません。反撃せざるを得ない。米軍基地が攻撃された場合には「梯子をはずす」という手は使えない。