米軍基地撤収が有事のシグナル
内田:アメリカの国益を優先したら、日本国内の米軍基地を全面撤収するのが「正解」なんですけれども、それが簡単にはゆかない。それは日本国内の大型固定基地が在日米軍の利権だからです。沖縄の基地のことを米軍はキューバに所有しているグアンタナモ基地と同じような「植民地」だと思っている。自分たちが血を流して戦って手に入れた土地だから自分たちのものだと思っている。グアンタナモ基地は米西戦争の時の「獲得物」です。もう100年以上米軍が占拠したままです。租借料は年額わずか3386ドル。キューバはずっと返還を求めて、租借料の受け取りを拒否していますが、米軍は返す気がない。グアンタナモ基地は国際法もアメリカの国内法も適用されないで、米軍法だけが適用される事実上の治外法権の空間です。だから、捕虜を拷問するような国際法違反をしても処罰されない。米軍にとってはたいせつな利権です。
沖縄基地も規模や程度は違いますが、本質的には「グアンタナモ基地化」している。沖縄では米兵が罪を犯しても日本の司法権が及ばない、ほとんど米軍の「租界」です。さらに基地の管理運営コストは日本政府が「思いやり予算」で潤沢に提供してくれる。こんな美味しい利権を米軍が手放すはずがありません。
しかし、その一方で、軍事は急速にAI化しています。これからの戦争はAIテクノロジー、ドローン、ロボット、さらにサイバー空間や宇宙空間にシフトしていきます。もう大型固定基地、巨大空母、有人戦闘機の時代じゃない。ホワイトハウスとしてはこういう古い軍隊を整理して、浮いた予算で軍事のAI化を進めたい。そうしないと中国とのAI軍拡競争に勝てない。
つまり、日本列島に米軍基地がない方が台湾有事を含めて「戦争に巻き込まれるリスク」は低減できる。AI軍拡という軍略のシフトとも整合する。中国とのネゴシエーションもし易くなる。どう考えても、在日米軍基地は「無用の長物」になりつつある。
すでに、ホワイトハウスは在韓米軍基地の規模を最盛期の3分の1に縮小し、戦時作戦統制権も韓国軍に返しました。朝鮮半島において「戦争に巻き込まれるリスク」を効果的に切り下げました。フィリピンのクラーク米空軍基地とスービック米海軍基地は、かつてはアメリカの海外最大の基地でしたが、これも1992年に返還されました。中国の東シナ海、南シナ海への進出に対抗して、フィリピン政府の要請でアメリカ海軍が一部駐留していますが、これもあくまでフィリピン政府の要請によってであり、いざという時にはたぶんそっと逃げ出すでしょう。
全体の文脈としては、西太平洋の米軍は「撤収」の方向にある。その中にあって、在日米軍基地だけが動こうとしない。この点について、ホワイトハウスと在日米軍の間には、かなりシリアスな葛藤があるのではないかと僕は思っています。