そしてもうひとつ忘れてはならないのが、わずかな平均の差が、生まれ持った性差とは言えない可能性が高いことだ。

脳は日々変化する

「脳は日々変化します。学習や環境、加齢など様々な要因で少しずつ変わっていくのです。つまり、脳の差は行動や環境の結果ともいえます。そして、社会の中には大きな性差があります。能力の平均値の男女差は生まれ持ったものではなく、社会的につくられたものだと考える方が自然でしょう」(四本教授)

 例えば、代表的な男性脳・女性脳言説に、「男性の方が空間的理解に優れ、地図読みが得意」というものがある。だが、ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンの研究者らが中心となって各国の250万人を対象に研究を行い、2018年に発表された論文では、ジェンダーギャップ指数の順位が高いノルウェーやフィンランドでは男女の空間認知能力に大きな差がなく、女性の社会進出が遅れている国ほど男女差が大きい傾向にあることを明らかにした。また、京都大学を含む29カ国の研究チームが今年5月に発表した論文によると、男女間の不平等が大きい国ほど大脳皮質の厚さに男女差があり、女性の方が薄い傾向にあることがわかったという。

「注意しなければならないのは、これらもまた傾向的な平均を調べたものであって、個人の性質を言い当てられるものではないということです。それでも、脳の男女差が社会的な性差によってつくられることを示唆する、非常に興味深い研究です」(同)

(編集部・川口穣)

AERA 2023年8月28日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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