「メンタルトレーニングは心の筋トレ。バーベルは言葉です。私のかける言葉が選手の心の筋線維(きんせんい)1本1本を作ると思うと、どうしても言葉選びに慎重になるし、選手の言葉もまた洗練されていく」

 競技に言葉の重要性を語ったのはプロレスの棚橋弘至(たなはしひろし、46)。会場を盛り上げるマイクパフォーマンスには頭の瞬発力が求められるため、練習と同じくらい読書に時間をかけるという。

AIが精度を増しても

 アスリートの言葉は、私たちに共感や感動を呼び起こし、モチベーションや新たな気づきを与え、前向きな姿勢へ導いてくれる。また、認知科学や言語心理学が専門で慶應義塾大学環境情報学部教授の今井むつみは、人工知能が進化する今こそ、アスリートの言葉がより大事になると語る。

「ChatGPTのような生成AIがどんなに精度を増しても、アスリートが身体から絞り出す言葉は作成できない。記号接地していないからです」

 記号接地とは認知科学分野の概念で、言葉の意味を理解するには、現実世界から受け取る具体的な情報について身体的な感覚を持つ必要があるという考え。

 将来的に生成AIは優れた人生訓などは作成できても、身体性を伴った言葉は作れないと今井は断言する。

 今後ますますアスリートの言葉は貴重なものになりそうだ。(スポーツジャーナリスト・吉井妙子)

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