エルサレム中心街にあるマハネ・イェフダ市場。野菜、肉、パンの店のほか、カフェやバーもある。金曜の昼が最も人出が多いという(撮影/深澤明)

 この春、成田との直行便が就航し、行き来がしやすくなったイスラエル。ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地として巡礼者に人気の国だが、多様な食文化に触れられるのも魅力だ。6月下旬、現地を旅した。AERA 2023年8月7日号の記事を紹介する。

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 イスラエル人が日常的に食べているのはどんな料理なのだろうか。

 市民に愛されるローカルフードが味わえると聞いて訪れたのは、イスラエルの商業都市・テルアビブにある「カルメル市場」。100年の歴史がある、いわばテルアビブ市民の“台所”だ。色とりどりの野菜や果物、香辛料、パンなど、あらゆる食材を扱う店が所狭しと並ぶ。地元民と観光客が入り交じり、日本でたとえるなら上野のアメ横のような活気があった。

 人気の屋台をのぞいてみると、店員が巨大な鍋で、クレープのような生地に生卵を包んだものを手際よく揚げていた。揚げたてをキャベツやトマトとともにピタパンにはさんだこのグルメは、チュニジアなど北アフリカで食べられる「ブリック」をアレンジしたものだという。味付けは少し辛め。食べ歩きにぴったりだ。

「カルメル市場には北アフリカ系の料理を出す店が結構あります。スパイシーな料理は地元で人気があります」(ガルさん)

 次に立ち寄ったのが「フムス」の店だ。フムスとは、茹(ゆ)でたひよこ豆に、オリーブオイル、ニンニク、レモン、タヒニ(白ごま)などを加えてペースト状にしたもの。ピタパンにはさんだり、野菜に塗ったりと食べ方はさまざまで、「イスラエル人にはみな自分好みのフムスの店がある」といわれるほど、国民食として定着している。訪れた店はイエメン系の店主が経営していたが、フムスはイスラエルのみならず、ヨルダン、レバノン、シリアやパレスチナなど、中東地域で幅広く食べられているという。

テルアビブのカルメル市場で食べた2種類のフムスとピタパン(撮影/深澤明)

イスラエル料理とは

 イスラエルの食は多国籍だ。イスラエルと日本の文化に詳しい、ヘブライ大学人文学部長のニシム・オトマズキン教授は、こう説明する。

「イスラエルの料理は、欧州、中東、北アフリカの影響を受けています。ファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)やフムスといった中東料理に加え、世界各地のユダヤ人によってもたらされた料理と相まって、イスラエル料理を正確に定義づけるのは難しい。そもそも人口の半分は移住者なので、料理はとても多様です」

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