一方、デジタル機器を使った「盗撮」も深刻だ。
7月下旬、国土交通省職員の男(31)が、東京・霞が関の合同庁舎内の女子トイレに侵入し、スマホで盗撮しようとしたとして書類送検された。男は容疑を認めているというが、盗撮事件は連日のように報道されている。
警察庁によれば、全国の警察が逮捕・書類送検した盗撮件数は年々増え、22年は5737件と過去最多を更新した。増加の背景には、スマホや高性能の小型カメラの普及があるといわれる。5737件のうち、スマホと小型カメラによる盗撮は計約93%になった。
長年、性犯罪加害者の再犯防止教育にあたってきた精神保健福祉士・社会福祉士で『男尊女卑依存症社会』の著書もある斉藤章佳さんは、「盗撮は性依存症である」と指摘する。
「依存症になるかどうかは、その人が置かれている環境的要因や遺伝的要因、心理社会学的要因などによって決まります。盗撮をするのは圧倒的に若年層の男性で、スマホを使いこなしSNSとの親和性も非常に高いからです。これは、SNSで裸の自画撮り画像を送らせ拡散する加害者も同じです」
依存症を自力で直すのは難しい。
斉藤さんが勤務する大船榎本クリニック(神奈川県鎌倉市)では、エビデンスに基づく再発防止のための認知行動療法を行っている。それは、「やめ方を学ぶ心理教育」だと言う。
「性犯罪加害者の中には、加害行為が生活習慣の一部のようになっていてやめられない人がいます。つまり、行動や衝動を制御するためのブレーキが壊れている状態で、条件反射的に盗撮をしています。そこで、治療では新しい条件反射の回路を作っていきます」
周囲で気づいた人が声を上げることが効果的
さらに、性犯罪加害者は「女なら男の性欲を受け入れて当然」など、本人にとって都合良く解釈する「認知の歪み」があることが多い。治療はこの「歪み」を自覚させ、再犯防止のために何が必要かを一緒に考えていく。期間は、初犯や犯罪傾向が進んでいない「ローリスク」の人は半年から1年、暴力的な性犯罪を繰り返す「ハイリスク」の人は最大3年で、再犯リスクがかなり抑えられるという。性犯罪加害者への治療が必要なのは、「第一に被害者を出さないため」と斉藤さんは強調する。
「被害に遭った女性は自尊心を奪われ、安全な生活も失います。そして加害者自身も、これ以上立ち直りに必要な人間関係を失わないためにも治療は必要です。盗撮の加害者のほとんどには家族がいます。家族との関係性を再構築していくことも大切な課題です」