7月13日、改正刑法の施行にあわせ、面会や性的画像の送信を要求する「面会要求罪」や性的部位や下着の盗撮などを罰する「撮影罪」など、デジタル性被害に対応する法律も新設された。違反すれば前者は1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、後者は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が科せられる。枠組みができた意義は大きいが、場所を提供しているプロバイダーや回線事業者の責任は問われないなど課題も残る。
“魂の殺人”と言われる性犯罪をなくすのは、社会が背負う重要な課題でもある。デジタル性被害は誰にでも起こりうる。防ぐにはどうすればいいか。
先の櫻井准教授は、SNSを使った性犯罪は子どもの孤独感が利用されることから、「子どもの居場所づくりと、保護者や教員を対象とした予防教育の取り組みが必要」と説く。
「まっとうな支援者とグルーミングを行う人は、どちらも優しい言葉をかけてきます。しかし、海外の研究では、会話の中に性的な内容が含まれていたり、『他の人に言うな』などと口止めされたりした時は危険であることがわかっています。こうした安全のための具体的な指標を教育で教え、性被害を防いでいくとともに、私たち大人が子どもの心に思いを寄せることを忘れてはなりません」
この取り組みは、横浜思春期問題研究所(横浜市)で行われているという。
前出の斉藤さんは、デジタル性被害を防ぐには「第三者の目」が鍵になると話す。
「沈黙する第三者が行動を起こすことを、『アクティブ・バイスタンダー』と言いますが、盗撮は、周りにいて盗撮に気がついた人が声を上げることが極めて効果的です。SNSを使った性犯罪では、第三者である親が子どもとの関係を密にして、子どもがスマホやタブレットで何をしているのかある程度知っておくことが大切です」
法務総合研究所の統計(15年)によれば、性犯罪加害者の99.8%は「男性」だ。斉藤さんは、根っこに「日本社会における男尊女卑の価値観がある」と指摘する。女性をモノ化したり、下に見たりすることで自身の優位性を確認する価値観だ、と。ちなみに、内閣府が20歳以上の男女を対象に行った調査(20年度)では、女性の6.9%、男性の1%が「無理やり性交などをされた経験がある」と答えた。女性の14人に1人、男性の100人に1人に被害経験がある計算となる。
「男尊女卑的な価値観は、いつの間にか私たちに刷り込まれ内面化することで認知の歪みの温床になっていきます。特に男性は、自分にも男尊女卑的な価値観があり誰かを傷つけてきた可能性があると捉え直すことが求められます」(斉藤さん)
デジタル性被害は、デジタル社会がもたらした「影の部分」だ。その行為は、ときに被害者の人生を破壊し、終わりのない苦しみを与える。その認識を社会全体で共有し、根絶を目指さなければいけない。(編集部・野村昌二)
※AERA 2023年8月7日号