スターの条件というのは、優しくて、なんでも分け隔てなく接して、包容力があること。なんでも「いいよ、いいよ」と大きく構えていられることだ。それがトップに立つ人の条件だけど思うけど、馬場さんの場合は好き嫌いが激しかったから、馬場さんのことが好きな人間もいれば、嫌いな人間も多かっただろう。馬場さんはアメリカのニューヨークでトップを取ったプライドを捨てきれなかったけど、逆にそのことが日本で生きる原動力になったのも確かだ。

 一方で猪木さんは誰でもウエルカムで、新日本プロレスを一度去った人間も、戻ってくることになにも言わなかった。好き嫌いではなく、新日本プロレスという枠組みを大事にする人だった。全日本プロレスで出戻りなんてあり得ないよ! そう考えるとやっぱり包容力は大事で、小さいことにこだわって差別していると、誰も寄ってこなくなるもんだ。

 じゃあ相撲界のスターも一緒かというと、そうはいかないんだよね。相撲界は特段好き嫌いが激しい世界。「出羽の海部屋が嫌い」「時津風部屋が嫌い」だとか、自分がいる部屋にプライドを持っていて、どこそこ相撲取りには負けてられないって、ハッキリさせなきゃいけなかった。

 部屋の横綱の大鵬さんがライバルの柏戸さんと仲良しなんてことになると、「なんだよ、うちの横綱は!」となっちゃうからね。大鵬さんも柏戸さんもベテランの域に達したあたりで、お互いに巡業に行ったとき「どっちが先に朝風呂に入るか」で競争していたからね。

 あれだけ一世風靡した大横綱が「どっちが先に風呂に入るか」を競っているんだから、茶目っ気はあるかもしれないが、下っ端の俺たちからしたら「横綱、そんなことで……」って。でも、その現場にいられたのは全て俺の財産だ。13歳で相撲の世界に入って、プロレスに転向して必死に戦ってきたからこそ、身近にスーパースターを感じてこられたことで、多くのことに憧れを持って自分を奮い立たせることもできた! 腹いっぱいだね!

(構成・高橋ダイスケ)

天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。

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