店は、「青葉」時代から住んでいた自宅を改装した。もともとは二階建ての中華料理屋の居抜きで、二階を住居にして、一階を店舗にした。店名の「真心」は日塔さんがいつも気にかけておきたいこと。店として一番大事なことを最も身近な店名として置いておけば、いつでもそこに立ち返れる。そう思って付けた名前だ。
「立地については正直気にしていませんでした。SNSを使えば集客できるかなと甘い考えを持っていました。ラーメンがおいしければお客さんが来る。自信があったわけではないですが、そう思ってオープンしました」(日塔さん)
オープンしてから一年間は本当にきつい毎日が続いた。はじめは地元のお客さんが目新しさに食べに来てくれたが、一カ月半が過ぎてゴールデンウイークになると客足が一気に遠のいた。11時から21時まで通し営業をしても、お客さんは30人。ひどいときは10人という日もあった。
「スープを作っては余って捨てるという日々が続き、この店をやっている意味があるのかなと何度も悩みましたね」(日塔さん)
その年の10月、ラーメン雑誌に載ったことがきっかけで少しずつお客さんが増えはじめた。日塔さんはラーメン店主の会合にも顔を出すようになり、SNSで店主たちとつながったことで、口コミも広がり出した。
まずはおいしいものを作る技術を上げ続けなければと限定ラーメンを毎日作り、技術を磨き上げた。じわじわと売り上げは右肩上がりになり、SNSと口コミで少しずつお客さんも増えていった。店を開くには正直厳しすぎる場所。そこで人気店を作り上げたことは本当にすごい。完全に口コミのみで上り詰めた店なのである。
「とんちぼ」の丸岡さんは「真心」のラーメンを“人柄が現れるラーメン”と評価している。
「まさに応援したくなる、顔の見えるラーメンです。店主の温かい人柄が現れるラーメンに惹かれ、暇があれば足しげく通っています。毎日限定メニューをやられていて、食べに行くたびに店主の心の機微が見えるいい一杯を作られています」(丸岡さん)
日塔さんも「とんちぼ」をお手本の店として尊敬している。
「鶴ケ島時代からよく行かせていただきました。お店をやろうと思った頃から接客のお手本にしています。“接客”といって一番はじめに思い浮かぶのが『とんちぼ』さんです。フレンドリーで気持ちがよくて、目指すならここだなと思っています。あの忙しさの中でお客さま一人ひとりと向き合っているのは本当にすごいです」(日塔さん)
同じ日高市で地元に密着しながらファンを一人ずつ作り続ける両店。お店づくりの基本とはいいながら、なかなかできることではない。両店のラーメンを見ればその心が伝わってくる。(ラーメンライター・井手隊長)