日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、その店主が愛する一杯を紹介する本連載。日高市の名所「巾着田」のほとりで営む名店の店主が愛する一杯は、同じ日高市でお店をやるには厳しすぎる場所で人気店を作り上げた店主の紡ぐラーメンだった。
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■生きたスープを作るために…
西武池袋線・高麗駅から徒歩15分。埼玉県日高市にある彼岸花の名所「巾着田」のほとりに一軒のラーメン店がある。「中華そば専門 とんちぼ」である。
横浜家系ラーメンの人気店「千代作(ちよさく)」や『ミシュランガイド東京』にも掲載された名店「多賀野」で修行した店主・丸岡匡太郎(きょうたろう)さんが2008年に埼玉県鶴ケ島市で創業した店。煮干しをベースにした無化調(化学調味料不使用)の一杯を提供し、雑誌や口コミでお客さんを増やしてきた。鶴ケ島での9年間の営業を終え、17年9月に埼玉県日高市に移転する。彼岸花の名所「巾着田」のほとりの風光明媚(めいび)な場所である。
「老後に自然に囲まれて過ごしたいと思って両親が購入した土地なんです。親としても、もしかしたら息子がここで店をやるかもしれないと思っていたかもしれません。結婚をして子供も生まれて、環境としても自分の家でやるのが良いと思って移転を決めました」(丸岡さん)
鶴ケ島でラーメンの味をブラッシュアップさせていくうちに、いつか製麺も自分でやりたいと思うようになった。自家製麺にすることで自分の作りたい麺をいつでも作ることができるのと同時に、麺のコストを抑えてスープにもっと原価をかけることもできる。移転して、倉庫や冷蔵庫などの設備も整えた。
「一気にラーメンが作りやすくなって、良い環境になったなと思っています。営業時間も昼のみにして、集中して作れるようにしました」(丸岡さん)
目指したのは、丸岡さんが修行した「千代作」と「多賀野」のハイブリッド的な作り方だ。スープを作りおきするのではなく、リアルタイムで炊く「千代作」の横浜家系ラーメンスタイルを取り入れた。そこに、「多賀野」直伝の“追い煮干し”(提供直前に煮干しを加えてひと煮立ちさせる製法)を組み合わせる。二つの名店を経験した丸岡さんにしか作れない一杯だ。広い厨房(ちゅうぼう)は生きたスープをリアルタイムに作るのにも最適だった。
移転後、「とんちぼ」のラーメンは一気にパワーアップし、以前にも増して行列を作る人気店となった。
そんな丸岡さんの愛するラーメンは、同じ日高市で若き店主が営む人気店の一杯だった。