8番目にマッチングした52歳のカイさんも、そんなジレンマを抱えていた1人だ。
建設現場の工事監督をしている彼は、地味だがプロフィールから誠実で優しい雰囲気がにじみ出ている。アプリの流動的な人間関係に疲れきっていた私はそのほっこりした笑顔に癒されて、もらった「いいね!」をつけ返した。
ただプロフィールの「結婚歴」に「死別」と書いてあるのが気になる。マッチングした人で何人かパートナーが病気や事故で亡くなったという人がいたが、みんな性格や価値観の不一致による離婚に比べると遥かに深く過去を引きずっていた。当たり前の話だが亡くなった方には絶対に勝てないし記憶の書き換えもできないから、せいぜい思い出話を聞いてあげることぐらいしかできない。でもそれがあまりに近い過去の場合は、こちらも苦しくなるので躊躇してしまう。
カイさんとは過去の話を聞くチャンスもないままメッセージを重ねていき、おたがいに水族館好きだと判明したので、週末、品川のアクアパークで会った。
その日、魚を見ながら雑談を始めて間もなく、私はカイさんに聞くべき質問をぶつけることにした。妻と死別したのはいつ頃だったのか。
亡くなったのが3年以内なら、こちらとしても心が痛むのであまり突っ込むのはやめようと思っていた。が、聞きにくい。さんざん回り道をしたあげく、ようやくこう聞くことができた。
「もし話すのが辛かったらスルーしてもらって構わないんですけど、プロフィールに書いてあった死別っていうのはいつ頃……?」
「逝ったのは4年前。もともと持病があったんですけど、いろいろな事情で離れて生活していて。で、予想以上に進行していて看取れないままに……」
それからカイさんは事情を詳しく話してくれた。亡くなった妻はベトナム人だった。カイさんが仕事でホーチミンに6年間住んでいた時に出会い、付き合って結婚したのだ。が、カイさんの仕事が終わって日本に帰国する時、彼女は体調を崩して入院していた。そばについていてあげたかったが、入院費と生活費を稼ぐには、ベトナムより日本のほうがずっと効率がいい。仕方なく彼女を家族に託して帰国し、必死に働いている時に状態が悪化して亡くなった。