「企業も自らの歴史を残すため、たとえばメルセデス・ベンツは1900年ごろ自動車の販売を開始した当初から大量生産に移る1950年前後までの受注生産台帳をすべて保管しています。あらゆる人間活動に関する重要な記録を、広く共有されるべき記憶として残すのがアーキビストといえます」

 同大学院のアーカイブズ学専攻の出身者の一人は、建築に関する記録の整理方法の日本における課題をまとめた博士論文で、建築分野のすぐれた論文に贈られる「山田一宇賞」と「住総研博士論文賞」をダブル受賞した。また社会的養護施設の記録管理が不十分なため施設の出身者が自分に関する過去の情報が得られにくい現状とその解決方策を研究書にまとめ、日本社会福祉学会「学会賞(奨励賞)」を受賞した人もいる。アーキビストが扱う記録は、このように専門領域や社会生活を含む幅広い領域に及ぶのだ。

■劣化した文書の修復実技も体験する

 大学院ではアーカイブズ学を基礎から学ぶ。なかでも記録資料の保存についての授業はほかの専攻にはない内容で、資料が劣化する原因を科学的に分析したり、どのように保護するかを学ぶ。また2023年4月にオープンした新しい大学図書館棟に設けられた保存修復実習室では専門家に指導を受け、虫食いになった江戸時代や明治時代の文書を繕い、和紙で裏打ちをするなどして修復を体験する。

 アーキビストの公的資格制度としては、2020年度に始まった独立行政法人国立公文書館の「認証アーキビスト」があり、22年度までで281人が認証されている。学習院大学大学院アーカイブズ学専攻は、認証アーキビストに必要な知識や技能などが体系的に修得できる教育機関として、出身者や在籍者のうち22人がこの資格を取得している。

 就職先は大学など研究機関のほか、公文書館や博物館、資料館、自治体、記録保存を受託する企業や出版社などだ。保坂教授はアーキビストをめざす人に向けて「研究者としての能力はもちろん、資格を取った後にもスキルを磨き続け、記録を扱う専門家として認められなければなりません」と語り、次のようにアドバイスする。

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自分がアーカイブズの利用者になることで実感