なぜ若者が軍服を着るのか
伊奈さんは軍服姿の高齢者を撮影するたびに写真を送った。
「みんな喜んでくれて、『今度は桜の時期に行くから撮りに来ないか』とか、連絡がくるようなった」
境内に整列した大勢の軍服姿の男たちが大鳥居と満開の桜を背景に写っている。
「実はこのとき、報道カメラマンがいっぱいたんです。でも、ぼくは依頼されて撮影しているから、『伊奈君、ここで撮りなさい』って、一番いい位置で写せるわけですよ。すると、周囲のカメラマンから『いったい、こいつは何者だよ』といった目で見られる。すると、『昭和天皇崇敬会』の腕章をしている。なので、堂々と撮れる」
欧米でも元軍人が戦争の記念日に軍服を着てイベントに参加することは珍しくない。
ただ、靖国神社の場合は、それとは異なる面がある。作品には明らかに戦争体験者でない人が当時の服装で写っている。
「この人、面白いんだけど、毎年違う格好でくるんですよ」。白いかっぽう着と「大日本国防婦人会」のたすきを身に着けた若い女性が日章旗を手にしている。要するにコスプレだ。
「軍服姿の兄ちゃんたちに聞いたんですよ。『あんたたち、いったい何なの』って。そうしたら、劇団員だっていうんです。普段は小劇場で役者をやっていて、コスプレをしてここに来るのは修行の一環だと」
別の男性は「英霊の気持ちになりたいから」と答えた。戦争体験者はその言葉をどう受け止めるのだろう。伊奈さんは、「ついて行けませんよ」と漏らした。
「右翼って、何だろう」
57年、愛知県生まれの伊奈さんは安保闘争やベトナム戦争反対など、社会運動が盛り上がるなかで育った。
「ぼくたちは、国家とは何か、日本とは何か、ということをあまり考えてこなかった世代だと思うし、右翼を忌避(きひ)してきた。でも、怖いもの見たさ、というか、もともと右翼的な思想について関心があった」
それはいつごろからなのか、尋ねると、「具体的には言えないんだけど、もうずいぶん前からそういうものが頭の中にたまっていた」と口にする。