「眼科医ヨシユキ」こと、岐阜県立多治見病院の眼科主任・宇佐美欽通(うさみ・よしゆき)医師(写真=本人提供)
「眼科医ヨシユキ」こと、岐阜県立多治見病院の眼科主任・宇佐美欽通(うさみ・よしゆき)医師(写真=本人提供)

 では、もし傘の先が目に当たった場合、どんなダメージが想定されるのか。

 前出の宇佐美医師によると、かつては先のとがった金属製の傘が数多く流通していたため、眼球に穴があく「眼球破裂」が度々報告されていたという。その後、安全意識の高まりによってプラスチック製の傘が主流になったことで、今は、破裂を引き起こすような事故は少ない。

 しかし、プラスチック製ならではの恐ろしさもある。使い込むにつれて傘の先が削れてザラザラとけば立つため、目を軽くこすっただけで眼球表面に激しく傷をつけてしまう恐れがあるのだ。いわゆる黒目の部分である「角膜」が外傷により濁ってしまうと、視力が低下したまま元に戻らないケースも少なくない。

 大量のばい菌がついた傘で目に傷がつくのだから、感染症を引き起こす可能性も十二分にある。重度の「感染性角膜炎」になれば、寝ている間もふくめ1時間に1回、目薬を差したり、毎日2回の点滴を打ったりと、入院治療が必要になる。完治までには数週間~数ヵ月かかることもあるという。

 それでは、不幸にも自分の目に誰かの傘の先が当たってしまったら、どうすればよいのか。宇佐美医師は、「痛みが続く、視力が下がる、充血や涙が止まらないなどのサインがある場合は、角膜に傷がついている可能性が高いので、仕事を休んででも一刻も早く医師の診察を受けてください」と話す。病院に行くまでの間は、これ以上感染症のリスクを高めないためにも、絶対に目を触らないこと。冷やすなどもまったく意味がないため、とにかく目に刺激を加えないことが一番の応急手当てだという。

 数年前から、ずっと問題視され続けている傘の横持ち。当然、横持ちをする人が減れば世間の興味も薄れていくはずだが、実態はそうなっていない。

 そろそろ、これをニュースとして取り上げなくてもいい日が来ることを、願うばかりだ。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

●宇佐美欽通(うさみ・よしゆき)

2014年、東京医科大学卒業。東海地方の複数の病院勤務を経て、現在は岐阜県立多治見病院で眼科主任医師を務める。一方、YouTube、Twitter、TikTokなど様々なメディア上では、「眼科医ヨシユキ」として、目にまつわる様々な情報を発信。YouTubeのチャンネル登録者数は、22万人に迫る。著書に、『1日1回2つの画像を見るだけで目がグッとよくなる本』『大人気YouTuber眼科医ヨシユキの視力回復ブック』がある。

著者プロフィールを見る
大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

大谷百合絵の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
ヒッピー、ディスコ、パンク…70年代ファションのリバイバル熱が冷めない今