アスレチックスで復活するか
アスレチックスで復活するか

　阪神を取材するスポーツ紙記者は手厳しい。

「メディア報道で『藤浪は阪神だから活躍できない』という論調が目立ちましたが、決してそうではない。才木浩人、村上頌樹、ソフトバンクから現役ドラフトで移籍した大竹耕太郎が先発で活躍しているように投手の育成に長けているチームです。藤浪はメジャーで先発スタートでしたが、制球難で突如崩れる課題を修正できていないので厳しいと感じていました。救援に回ってからも右打者の内角に抜けてしまうボールが目立つ。投げてみないと分からないし、常に四球を出すことを考えなければいけない。フォームの修正を施さない限り、活躍するのは難しいでしょう」

　乱調が続いても辛抱強く起用されるのは、アスレチックス投手陣の苦しい台所事情が影響している。6月3日現在で、19勝50敗、勝率.275とア・リーグ西地区で大きく引き離されての最下位に低迷。目下7連勝中だが、443失点はメジャー30球団でワーストだ。1試合平均6.42失点と先発、救援が崩壊状態で、藤浪に期待せざるを得ない。

　低迷するアスレチックスはスター選手の不在で、不人気球団に。スタンドも空席が目立つ。5月15日の本拠地でのダイヤモンドバックス戦では観客動員2064人を記録。球場から足が遠ざかっているファンからは、チームの抜本的改革を求める声が多い。メジャーでは四球が多く、球数がかさむ投手の評価が低い。藤浪は今後も不安定な投球が続くなら、40人のロースター枠から外れてマイナー契約か他球団に移籍となる可能性が高い。アスレチックスで戦力にならなければ、他球団とメジャー契約を結ぶのは現実的に厳しいだろう。

　藤浪も生半可な気持ちで、海の向こうに渡ったわけではない。来年以降も米国でプレーすることが考えられるが、日本球界復帰の選択肢も浮上する。スポーツ紙デスクは「複数球団で争奪戦の可能性が高い」と予測する。

「日本ハムの新庄剛志監督は藤浪の再生に自信を見せた発言を過去にしています。ロッテも野球理論に精通した吉井理人監督が就任し、獲得に興味を示すかもしれない。巨人も先発、救援の層が薄い。他球団から移籍した選手が多いチームで、一緒に自主トレをした菅野智之もいるのでチームに溶け込むのは早いでしょう。日本球界復帰を決断した時、獲得に乗り出す球団がゼロということはないでしょう」

　伸び悩んでいる選手の再生に長けている球団が、日本ハムだ。昨オフにFAの人的補償でソフトバンクから移籍した田中正義は守護神を務め、23試合登板で1勝1敗9セーブ7ホールド、防御率2.45をマーク（14日現在）。ソフトバンク在籍時は度重なる故障で未勝利だったが、素質を開花させようとしている。新庄監督の強い希望で阪神から昨オフにトレード移籍した江越大賀も外野の広い守備範囲と強肩で幾度もチームを救っている。課題の打撃でも3試合連続アーチを放ち、6月9日の古巣・阪神戦（エスコンフィールド）では逆方向の右翼に4号ソロを放ち、勝利に貢献した。

　新庄監督は21年12月31日に配信された、球団OBで野球解説者・岩本勉氏のYouTubeチャンネルの動画に出演した際、「おれ欲しい選手1人いる。阪神の藤浪君」と明かし、「おれのところに来たらもう化ける」と自信満々だった。NPBでプレー経験がなかった前メジャー・メッツ傘下3Aシラキュースの加藤豪将をドラフト3位で指名したように、野球界の常識にとらわれない戦力補強を敢行する。「日本ハム・藤浪」が将来誕生する可能性はゼロではないだろう。

　藤浪が最も光り輝いたのが高卒3年目の15年。28試合登板で14勝7敗、防御率2.40をマークし、最多奪三振（221）のタイトルを獲得した。7完投、4完封もリーグ最多だった。新人から3年連続2ケタ勝利をマークした当時は同学年の大谷翔平（エンゼルス）より、「投手としての能力は上」と評する声が少なくなかったが、その後は制球難で投球フォームを崩す悪循環に。1軍定着すらままならなくなった。

　他球団のスコアラーは当時をこう振り返る。

「15年は確かにすごい球を投げていました。打者に聞いたら『バットに当てるのも無理や』って脱帽していましたから。でも当時から制球が良かったわけではない。実際あの年もリーグワーストの四死球（93）を与えていましたから。藤浪はクロスステップからの荒れ球が持ち味だったのに、そこを修正してこわごわと投げることで、逆に右打者の内角に抜けているように感じます。160キロ以上の直球を常時投げられるのは大きな才能です。WBCに出場した侍ジャパンの投手でもあれだけのエンジンを積んだ投手はなかなかいない。まだ29歳でしょ？　このまま終わるのはもったいないですよ」

　藤浪はアスレチックスで復活し、実績を積み重ねられるか。背水の陣の登板が続くが、意地を見せてほしい。


（今川秀悟）