女子中学生の軟式野球チームをつくる動きが各地で進んでいる。これまでは、学童野球で男子たちに交じって主力選手として活躍した女子選手も、小学校卒業後の受け皿がなかったり、思春期を迎える中で男子チームに入ることに抵抗があったりして、野球を諦めざるを得ないケースが少なくなかった。だが、企業の協賛などもあり、ここ数年は少しずつ女子野球の裾野が広がりつつある。
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埼玉県越谷市では、地元を「野球の街」として盛り上げようと関係者たちが「野球の街越谷」実行委員会を立ち上げ、野球教室などさまざまなイベントを開催している。
5月下旬。市内の、とある中学校のグラウンドを訪れると、真っ赤なユニホームに身を包んだ女の子たちが白球を追いかけていた。
昨年春に地元企業「SUNホールディングス」が創部した、15歳以下の女子軟式野球チーム「埼玉SUNレディース越谷」のナインたちだ。選手は中学生13人。監督の佐藤楓馬さんは大分の名門・明豊高校の投手として甲子園の土を踏み、大学を経て同じSUNホールディングスの硬式野球部で活躍した経験を持つ。
学童野球だけを見れば、ここ越谷の女子野球熱はもともと高かった。「越谷ドリームス」という学童野球の女子選抜チームがあり、昨年は埼玉代表として全国大会に出場した。
「野球の街越谷」会長の長瀬翼さん(同市立大相模中学教諭)は、2021年の夏ごろ、越谷ドリームスの関係者から、市内の学童野球チームに入っている女子選手が計60人以上もいることを聞かされて驚いたという。
だが、同時に疑問がわいた。
「中学の野球部に入っている女子生徒は一人もいなかったんです。こんなにたくさんの野球少女がいるのに、その後はどこへ行ってしまったのだろうかと」(長瀬さん)
調べてみると、市外のクラブチームに入り野球を続けている生徒もいたが、多くは中学のソフトボール部や他の競技に転じていた。
長瀬さんは、市内のすべての中学の野球部顧問に「着替える場所が確保できているか」など、女子が入れる環境が整っているかを確認したうえで、越谷ドリームスに出向いて中学の野球部に勧誘した。