小学6年生のときは先発ピッチャーとして活躍。「遅い」球が武器だった(撮影/國府田英之)
小学6年生のときは先発ピッチャーとして活躍。「遅い」球が武器だった(撮影/國府田英之)

 だが……、保護者たちの反応はかんばしくなかった。

「思春期の女の子が男子の中に入るのはちょっとねえ」

 さらに、その娘たちもまた「中学生の女子野球チームがあればいいのに」と口をそろえた。

 長瀬さんは新たなチームをつくる以外に、野球少女たちがプレーを続ける道がないと確信し、SUNホールディングスの鳥井佑亮社長に相談。「スポーツ人財の育成」を掲げ、野球部やバスケットボール部などを持つ同社の意向と合致し、SUNレディース越谷の立ち上げが決まった。

 野球を一度は諦めた、あるいは中学では諦めようと考えていた野球少女たちに、新たな道が開かれた。

 現在、女子野球の競技人口は増えており、中学の女子軟式野球チームをつくる動きは東京・府中市などでも進んでいる。

 日本中学校体育連盟(日本中体連)のまとめでは、22年度の軟式野球部の女子の加盟生徒数は3936人で10年前の1886人より大幅に増えた。硬式野球を統括する全日本女子野球連盟によると、15年の登録チームは62で競技者は1519人だったが、昨年は登録チームが101、競技者は2685人になった。

「求めていた場所ができてよかったと思います」

 こう話すのは、埼玉SUNレディース越谷のキャプテンを務める星川陽菜さん(14=大相模中学3年)だ。

 2歳年上の兄に続き、小学校2年生のときに学童野球チームに入った星川さん。6年生になると先発ピッチャーで打順は6番を任され、夏にはチームの主軸に成長した。 細い腕を目いっぱい振って投げるストレートの球速は、「多分60キロか、70キロの間くらい」(星川さん)で、 投球練習を見た相手チームが、「遅っ!!」とざわつくほど。コントロールの良さが武器だった彼女はその「超遅球」で凡打の山を築き、一回をわずか3球で終えたこともあった。

  とことん野球にはまっていた星川さんだが、「中学で男子と一緒にやろうとは思いませんでした」。思春期の女の子にとっては当たり前の反応かもしれない。

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たとえ「おまけ」でも野球が続けられればいい