枝元なほみ/料理研究家、認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表。横浜生まれ。明治大学卒業後、劇団員時代に無国籍レストランでシェフとして働く。1987年に料理研究家として活動を始め、テレビや雑誌などで活躍。食を考えるには農業や漁業などの生産の現場を支えることが必要と、「チームむかご」を設立し、農業生産者のサポート活動も行う(写真は本人提供)
枝元なほみ/料理研究家、認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表。横浜生まれ。明治大学卒業後、劇団員時代に無国籍レストランでシェフとして働く。1987年に料理研究家として活動を始め、テレビや雑誌などで活躍。食を考えるには農業や漁業などの生産の現場を支えることが必要と、「チームむかご」を設立し、農業生産者のサポート活動も行う(写真は本人提供)
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 現在、日本の全人口の6人に1人、ひとり親家庭の半数以上が相対的貧困の状態にある。相対的貧困とは、同じ国・地域に住むほかの人と比べ収入が少なく貧しいこと。日本は、年間500万トン以上の食品を廃棄している一方で、満足に3度の食事ができない子どもも多い。

【画像】ふらっと立ち寄りたくなる「夜のパン屋さん」

 料理研究家の枝元なほみさんが企画し、有限会社ビッグイシューとともに運営する「夜のパン屋さん」。2020年にはじまったこの取り組みは、売れ残ったパンを買い取り、夜に販売している。パンの回収と販売はホームレスの人や生活に困窮する人が仕事として行う。発売されたばかりの『やるべきことがすぐわかる 今さら聞けないSDGsの超基本』では、枝元さんに取材。新たな雇用を生みフードロスも同時に解消できる「食の循環の仕組み」について聞いた。一問一答を公開する。

*  *  *

――「夜のパン屋さん」(以下、夜パン)を始められたきっかけは?

「何か社会で循環することに生かしてほしい」とコロナ禍が始まる前に寄付をくださった方がいて、食に関する循環の仕組みを作れないかと考えていました。そんなとき北海道のパン屋・満寿屋さんが各店舗で売れ残ったパンを本店に集めて夜間に売っていると聞き、「やってみよう」と思い立ったんです。

 パンの回収や販売の仕事も作ることができ、フードロスも減らせる、合理的で誰もがハッピーになるアイデアだと思いました。移動販売車ならパンの回収や販売にも使えると勇み足で車を購入しましたが、実際は協力してくれるパン屋さんを探すほうが大変でした。それでもコロナの影響が深刻化する中2020年の10月16日、世界食料デーに合わせてオープンしました。

 現在は東京・神楽坂のかもめブックス前をはじめ都内3カ所で、夕方から夜にかけて定期的にパンを販売しています。渋谷や新宿などの人混みではなく、夜道にぽつんと明かりが灯って、道ゆく人が「なんだろう」とふらりと立ち寄れるような場所です。まさに大量生産・大量消費とは真逆のスタイルですね。

――オープンまでに一番苦労されたことは?

 当初、製粉会社やスーパーなど大手企業の協力を得ようと各社を回りましたが、日本のシステムの限界を感じて挫折しました。私の知人でオリンピックの選手食堂のフードロス解消に取り組もうとした人が、やはり同じ壁にぶつかって諦めています。

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「ロス」は人間の都合で生み出されたもの