セリーヌは強烈な反戦小説でデビューし、一躍、文壇の寵児になった。しかし“反ユダヤ”的な言辞で国外逃亡を余儀なくされ、その後は完全に黙殺された。貧困と失意のうちに死んだ。

 サドはたび重なるとくしん的な作品がキリスト教会の逆鱗に触れ、最後は精神病院で死んだ。

 SNSやツイッターで炎上しているうちは甘い。黙殺されてこそ一人前だ。本を読むとは、不良になること。本を読んでいれば、友人もいらない。恋人もいらない。

 そして、「いらない」と超然としている人のところに、友は現れる。世の中、そういうふうにできている。

 六日間、小説を読んで暮すつもりだ。けふから漱石の「明暗」を読みはじめてゐる。暗い、暗い小説だ。この暗さは、東京で生れて東京で育つた者にだけ、わかるのだ。どうにもならぬ地獄だ。クラスの奴らは、いまごろ、夜汽車の中で、ぐつすり眠つてゐるだらう。無邪気なものだ。

 勇者は独り立つ時、最も強し。(太宰治「正義と微笑」)

筆者の近藤康太郎氏
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