次世代のための露払いこそ我々中年の仕事(イラスト:サヲリブラウン)
次世代のための露払いこそ我々中年の仕事(イラスト:サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。


*  *  *


 鳥取にお邪魔しました。俗に「講演会」や「セミナー」と呼ばれる仕事です。仰々しいので、私はトークイベントと呼ぶのが好き。私が思ったことを話すだけだもの。


 トークイベントに関しては、自治体やそれに準ずる組織が男女共同参画社会を目指す目的で催すものなど、希望者が無料で参加できる催しを中心に受けています。有料イベントを毛嫌いしているわけではなく、有料なら私のなかでそれは「興行」扱いになるので、なにかしら芸がないと、お客さんに申し訳が立たないので。


 さて、ポッドキャスト配信を始めてからというもの、どこへ行っても数百人の方が会場へ足を運んでくれるようになりました。文筆やラジオの仕事だけだった頃よりは、心待ちにしてくださる人がグッと増えた体感があります。


 今回は、せっかくだから1泊しようと前乗りした鳥取。20年以上ぶりに空港に降り立ち、倉吉市までの美しい海岸線に目を奪われました。右を見れば青い海と滑らかな砂浜、左を見れば生命力あふれる緑が生い茂る山。圧巻です。こんなに美しいものを毎日見ている人たちの時間を頂戴するに値することをしゃべれるかしら?と、ちょっと怖気づいてしまったくらい。


 夜はとろけるような白いかを食べ、旅館のそばの小川で蛍を鑑賞し、温泉につかってのんびり。束の間の休みをじんわり味わいました。前乗りして本当によかった。


 翌日、会館に集まってくださったのは、250名にのぼる県民のみなさん。質疑応答含めて1時間半という長丁場でしたが、寝落ちする人もおらず、一生懸命私の話に耳を傾けてくださいました。


イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 今回のテーマは「ちょうどいい、を見つけよう」。多様性を尊重する社会になれば、当然の如く、過去の「これがあれば幸せ」の指標が消滅します。しかし、私たちのマインドがまだ追いつけていない場面が多々ある。すると、不安や心配ばかりが増えてしまう。どうやってそれを回避すればよいかのヒントを、20代の頃に思っていた未来とはまったく違う人生を歩んでいる私の経験からお話ししました。


 大切なのは、生き方の選択肢が社会に複数あること。そして、自分の幸せを他者に決めさせないこと。新しい価値観が宿るテクノロジーに食らいついていくこと。


 胆力のいる作業ですが、次の世代のための露払いこそが、我々中年の仕事です。


○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2023年7月10日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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