すでに中国、台湾やシンガポールでは、小中学校で休み時間や体育の授業は屋外で積極的に過ごすことが奨励されていて、国をあげての近視予防運動がスタート。効果が出始めているという。
■遅れている日本
だが、日本では長らく近視への対策が鈍く、有効な治療法の認可や承認も遅れている。
前出の窪田製薬HDは、かけるだけで屋外環境に近い状態を再現できるメガネ「クボタグラス」を開発。米国での実証実験で効果を得て、22年8月から国内での販売を始めている。窪田会長は、
「屋外と室内では、たとえ曇り空であっても光の量と質が違う。そこを調整し、目に屋外にいると錯覚させることができる。子どもだけではなく大人の近視にも効果があると期待される」
と話す。価格は約70万円と安くはないが、近視の将来的なリスクを重くみた保護者らからの問い合わせが相次いでいるという。だが、現時点で日本国内では医療的に効果があると認可はされていない。
また、海外では、低濃度アトロピン点眼薬や赤色の可視光線を1日3分目に当てる機器のほか、網膜の手前でもピントが合うように調整できるメガネや使い捨てコンタクトレンズなど、近視抑制に効果があるとされる治療が一般的になりつつあるが、いずれも日本では未承認だ。そんな状態のため、近視人口は増える一方だったが、今年になって動きがあった。
日本眼科医会が「6歳で視力1.0」を保つことを目標に、6月10日を「こどもの目の日」に制定。自治体の3歳児健診でより精密に目の状態を測れる屈折検査の導入を求めているほか、GIGAスクール構想を進める文科省とともに近視実態調査に乗り出している。啓発活動にも力を入れるという。
東京医科歯科大学の五十嵐医師は言う。
「デジタル時代に、近視のリスクを正しく知ることは不可欠。国内の近視予防や治療の普及が遅れているからこそ、早めの対策が必須です」
(編集部・古田真梨子)
※AERA 2023年6月26日号