撮影/戸嶋日菜乃
撮影/戸嶋日菜乃

――是枝監督は日本映画界の労働環境などを改善するため「日本版CNC設立を求める会」のメンバーとしても活動している。安藤は先ごろ「日本アカデミー賞」の授賞式でのスピーチが話題になった。

是枝:「怪物」の現場でも、労働環境の健全化については徐々に実現しようと頑張ったつもりです。子どものいる現場だったし、夜8時には帰す、5日働いたら1日休む、など基本スケジュールとして組んでもらっていましたが、でも、まだまだ改善ポイントはたくさんある。もう一息だよね。

■理解を超えたとき

安藤:難しいですよね。撮影はすべて予定通りにはいかないし、この現場ではなかったけれど、きっちり切り上げることができないこともある。子育てと同じです。「万引き家族」のときも私、同じようなことを話しているんです。今回、すごく私の発言が切り取られて「子育てと仕事を頑張って苦労して両立していて、その苦労がにじみ出た発言」みたいなことになっちゃったけど、そうじゃないんです。授賞式の会場でもちゃんと「(撮影という仕事の)システム的にできないことが多いから、私もどうしたらいいのかわからないけど」と具体的なことをしゃべってるんですけど、なんだか「感動」みたいな感じに切り取られてしまった。「頑張ってやっていきます!」みたいな自分でも知らない「誰?」みたいな安藤サクラが作られて、広がっていった感じがあって。そういうときは自分が自分の知らない「怪物」のような感じに見えるときもたまにあります。

是枝:そうやってメディアがつくるものも、また「怪物」ですからね。人が他者のなかに怪物をみるのは、得体の知れないもの、自分の理解を超えたものを感じたときだと思います。だけどそれは決して特別なものじゃないじゃない。子どもを思う母親にも、自分自身が怪物に見える瞬間がある。生徒思いの先生にも、そこに「怪物」が現れる瞬間がある。それは誰しもに起こることで、人生とはその積み重ねなんだと思うんです。

安藤:そう、映画を観て「だれも怪物なんかじゃない」って思いました。どこにも怪物なんかいやしない。しゃーないのよ、みんな、って。

是枝:自分で脚本を書いていると、だいたい途中で「これおもしろいか?」って疑問に思うんですよ。そばにいるスタッフに「おもしろい?」って確認するんですけど、今回は自分でも最後まで作っていておもしろかった。だから、確信をもっておすすめします(笑)。

(構成/フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2023年6月5日号

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