是枝裕和(これえだ・ひろかず):1962年、東京都生まれ。「万引き家族」(2018年)で第71回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。近作に「真実」(19年)、「ベイビー・ブローカー」(22年)などがある/安藤サクラ(あんどう・さくら):1986年、東京都出身。「百円の恋」(2014年)、「万引き家族」で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を、「ある男」(22年)では同最優秀助演女優賞を受賞/永山瑛太(ながやま・えいた):1982年、東京都出身。代表作に「ディア・ドクター」(2009年)、「まほろ駅前」シリーズ(11、14年)、「護られなかった者たちへ」(21年)など多数(撮影/戸嶋日菜乃)
是枝裕和(これえだ・ひろかず):1962年、東京都生まれ。「万引き家族」(2018年)で第71回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。近作に「真実」(19年)、「ベイビー・ブローカー」(22年)などがある/安藤サクラ(あんどう・さくら):1986年、東京都出身。「百円の恋」(2014年)、「万引き家族」で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を、「ある男」(22年)では同最優秀助演女優賞を受賞/永山瑛太(ながやま・えいた):1982年、東京都出身。代表作に「ディア・ドクター」(2009年)、「まほろ駅前」シリーズ(11、14年)、「護られなかった者たちへ」(21年)など多数(撮影/戸嶋日菜乃)

――早織の訴えに、保利は謝罪をするが、明らかに本心からではないように見える。そしてさらに事件が起こる──。母親、教師、子どもたち。映画はそれぞれが見ている真実を多角的に見せることで、「自分の見ているものは、果たして正しいのか?」という新たな気づきを観客に提示する。

是枝:それぞれが見ている真実が違う、ということが層になって物語世界ができている。そこが演出していてもおもしろかったですね。コロナ禍でより社会には一元的な物の見方が蔓延(まんえん)したと感じます。自分のほしい情報に囲まれていることの心地よさが加速して、そこで充足しちゃうんでしょうね。自分の足で情報を取りに行くことなく、ネットでおすすめされる本だけをチェックしているような。それでは情報も世界も閉じてしまうけれど、それがいまのリアルな世界の状況だと感じます。

――映画が問いかけるのは「怪物」とは誰なのか、なんなのか、だ。演じた二人それぞれに「怪物」をイメージしてもらった。

安藤:私にとっての「怪物」はなんだろう……。私はどんどん想像が広がっていっちゃうタイプなので、自分で何かを思い込んで自分の中で大きな「怪物」を作ってしまったりしないように、小さいときからすごく気をつけてきたんですよね。だからインターネットも見ない。情報がいっぱいあることが苦手で居心地が悪いんです。大きいスーパーマーケットじゃなくて小さい八百屋に行くほうがストレスがない。なので、そういう苦手なものからちょっと遠ざかって暮らすというずるいやり方をしてるんですけど(笑)。だから私にはネットの「おすすめ」やメディアの情報とかがすごく「怪物」に見えるかもしれない。

永山:僕にとっての「怪物」イメージは夢のなかに出てくる怖いもの、リアリティーのないものですが、でもそれは結局、自分のなかにある弱さや不安を投影したものなのかなとも感じます。いま心配なのは、自分よりもこれから大人になっていく子どもたちのことです。たとえば、公園に行くと、子どもを遊ばせながら、自分のiPhoneやiPadに夢中な方が目についてしまう。話があっても目の前にいる子どもと直接向き合わずに、「後でメールするから」というような親子の関係性があるのも仕方がない状況かもしれない。でも、自分が小学生だったときとはまったく違う状況です。そのなかで育った子どもたちが、どういう人間関係を築いて、どういう大人に育っていくのかが想像しにくい。僕自身も父親として、すごく心配になるんです。ただ、「答え」があることが絶対じゃないんだと、本作を観終わったあと強く感じました。この作品に参加できて本当に嬉しく思ってます。

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