「俺が17歳の時に母親は自殺した。その日、寮生活をしていた俺に突然会いに来て『進路を今決めろ』と言い、別れ際に『ねぇ、私綺麗かな?』と聞いてきた。『実の息子に何言ってんや! 気色悪い。もう門限だから行くぞ』と言って車から降りると、母親は泣きながら笑っていた。それが最後の会話になった」と2020年7月19日、若い俳優が自死した直後に高知はツイートしている。少し補足しておこう。
進路を聞かれた丈二が父親の跡を継ぐとほのめかすと母は「任侠(にんきょう)の世界だけは絶対にいかん」と言い切った。じゃあ大学に行かずに職に就くと伝えたら、安堵(あんど)して車を発進させた。それから2時間後、母はトンネルの入り口に激突して命を絶つ。かけていた生命保険が失効する2日前だった。
「その日から俺は『なんであの時<綺麗やぞ、お袋>と言ってやらなかったのか?』『言ってたら死ななかったのか?』と苦しむことになった。喪失感、怒りや悲しみ、様々な感情をどう吐き出していいかわからず、俺はどんどん荒れていき喧嘩(けんか)ばかりするようになった。今も最後の一言への後悔は消えていない」とツイートは続く。
母の死後、父と教えられた侠客と血のつながりはなく、実父は徳島の任侠の世界で生きていると知る。丈二の煩悶(はんもん)はさらに深まった。
(文中敬称略)
(文・山岡淳一郎)
※記事の続きはAERA 2023年5月22日号でご覧いただけます