阿川:私、びっくりしちゃって。いまの時代だと、この部分は全部カットするだろうなと思ったんですよ。だって何もないんだから、ページのムダでしょ。だけど、年月がたってそれを読むと、その場の空気が伝わってくるようで、むしろ味わい深い。いまは中身を重視したり、対談のあらすじを重視したりするから、ムダなところはどんどん削っちゃうけど、話が飛んじゃっても、結論が抜けたとしても、そのときの空気のほうがおもしろいと思ったら、そっちを重視したまとめ方をしたほうがいいと思ったんです。
林:なるほどね。
阿川:誰かに何かを教えてもらうという対談より、ダラダラしたゆるいしゃべりを読者が求めている部分があるからね。たとえば政治家に「防衛費の中身はどうなんですか」って聞いて、「あれはこうで、これはこうで」という問答は必要かもしれない。でもその合間に、「入れ歯がはずれちゃった」と言って政治家が慌てたら、絶対その言葉は載せたいですね。
林:ずいぶん前に民主党(現・立憲民主党)の代表だった岡田克也さんにここに出ていただいたとき、私、ズボンに継ぎが当たってるのを見つけてびっくりしたの。「あ、継ぎが当たってる!」って言ったら、「気に入ってるズボンなので」と言って、べつに気にする様子もなかったので、大金持ちのおうち(父はイオングループ名誉会長の岡田卓也氏)なのにおもしろいなと思ったんだけど、これも対談のよさだなと思って。
阿川:そういうズボンの継ぎなんか見つけたとき、「やった!」という感じになりますよね。それ、活字になったんですか。
林:なりましたよ(04年9月17日号)。まあ、いろんなことがありました。
阿川:こんなこと言うのもなんだけど、昔むかし、私が初めて林さんにインタビューしたときは、警戒心というか、何となく距離を測ってるような感じで、ちょっと斜に構えてるみたいな様子に見えたの。だけど、この連載対談をなさったことでサービス精神が旺盛になられたというか、人なつこくなられた気がする。
林:ああ、そうかもしれない。
阿川:パーティーとかで「あら、こんにちは」と言ってみんなにあいさつなさってる様子なんて、初期のころはあんまり想像できなかった。
林:いろんなことをされたから、人に対してすごく用心深かったんじゃないかな。
阿川:いろいろたたかれもしたからね。だからこの対談を続けた成果はあったんじゃないですか。
林:ほんとに感謝してますよ。阿川さん、あと10年は頑張ってくださいね。「徹子の部屋」と並ぶブランドなんだから。
阿川:そんなの無理ですよ。もはや耳は遠いし、目は見えないし、記憶力はないしって状態だもん。あっ、そうだ林さん、「週刊文春」、私と隔週交代でやらない?(笑)
(構成/本誌・唐澤俊介 編集協力/一木俊雄)
※週刊朝日 2023年6月9日号