阿川:「撮影、寒かったでしょう?」とか「あのシーンはセリフ覚えるの大変だったんじゃないですか?」とか言う。「映画、感動しました」という言葉がどうしても出てこないときは(笑)。
林:そうよね。最近、芸能人の人って、原稿をチェックしてもらうと「なんであの話を削ってくるの?」と思うぐらいカットしてきませんか。あのときあんなに楽しくお話したのに、なんでカットするのかな、と思うことしょっちゅうある。
阿川:あれは事務所の判断なんでしょう。事務所の人がこの対談ページをどうとらえているか、理解があるかないかで大きな違いがあると思う。「この対談を愛読してるし、おもしろいと思うから、何でも聞いてやってください」というおおらかな事務所もあるし、担当のマネジャーさんって若い人がつくことも多いから、ボスから怒られないように「プライベートなことは一切聞かないでください」って断固、譲らないこともありますよね。
林:ああ、なるほど。
阿川:映画のプロモーションがらみで竹中直人さんがいらしたことがあるんですよ。映画を事前に見たら、それがすごくコワい映画で、この話をするのつらいなと思いながら「映画、コワかったです」と言ったら、「いいっす、映画の話は」っておっしゃるの。映画会社の人がいるのに。それで竹中さんの小さいころの話から始めたら、好きになった女の子の名前を全部フルネームで覚えてるって話をなさって。
林:まあ、フルネームで。
阿川:小学校1年のときは○山△子ちゃんで、5年のときは◇川▽江ちゃんで、中学1年のときは……って、その一人ひとりの物語を話してくれたんだけど、もうメチャクチャおかしくて。
林:へぇ~。
阿川:だけど映画会社の人は怒ってるだろうな、いいのかなこれでと思ってたら、後日、文春の担当編集者が竹中さんに電話で呼び出されたんだって。そのとき、彼、「ああ、来ちゃったよ」と思ったらしいのね。大々的な直しが入るんだろうなって、竹中さんのところに行ったら、「いやぁ、僕、もう一人好きな女の子を思い出してね。この人との話も入れたほうがおもしろいと思うんです」って、また話し始めたんだって(笑)。
林:素晴らしいです、竹中さん。
阿川:おもしろい記事にしましょうという気持ちがあふれてて、担当編集者、感動して帰ってきた。