阿川:多少なりとも接点はあったけど、だからといって永田町のことがわかってるわけでもない。経済もわかっているわけじゃない。だから「週刊文春の対談のホステスになれ」って言われたときに、「私、どのジャンルもわかりません」と言ったら、「じゃあ、タイトルは『阿川佐和子のこの人に会いたい』じゃなくて、『阿川佐和子の一から教えて』にしようか」と冗談で言った人がいたぐらい。
林:アハハハ。
阿川:それで私は「これは対談じゃなくて、限りなくインタビューだと理解してください。私の質問は2行以内におさめてください」って言ったの。だからそのころのライターの人、私がけっこうしゃべっても、ほんとに2行以上にしなかったんです。ゲストと対等にしゃべるほどの能力はないと思ってたから。
林:だけど、ゲストの人に興味を持ってもらうために、「実は私も」って自分のことを話さなかった?
阿川:たとえば俳優さんがゲストで来て、私が「監督さん、コワくなかったですか」って聞いて、うーんと考えて言葉に詰まったら、「実は私もちょっと演技の仕事をしたんです」と言ってしゃべると、「あ、そういえばぼくの場合は」と言って思い出して話し始めたり……。
林:呼び水ですね。
阿川:そう。でも、活字にするときに私の話は大部分をカットされますよ。
林:なるほど。テレビの場合は沈黙っていうのが許されないから、皆さんよくしゃべるけど、私たちは沈黙もあるから、その間合いが活字の対談のよさかもしれないですね。
阿川:昔、確か徳川夢声さんと、武者小路実篤さんの対談を何かの機会に読んだんですよ。
林:「週刊朝日」の対談?
阿川:そう。春先、どこかの料亭みたいなところでやってるんです。最初、お通しが運ばれてくると「ほう」とか言って、「お、ウグイスが鳴いてますね」「そうですね」とか、のんびりした話が延々と続くのね。「ああ、君ね」「ええ、なんでしょう」とか。
林:ええ。