林:一流の人はすごいですよね。でも、哲学者とか科学者とか宇宙飛行士なんか、会う前にいろいろ本を読んだり資料に目を通すんだけど……。
阿川:読んでもわかりませんよね。物理学の人、大変だった。わかんなかった。
林:私、はっきり言いますよ。「本を読んだり努力はしましたけど、ごめんなさい、たどり着けませんでした」って。
阿川:「でも、あなたには興味があります」という気持ちを伝えてね。私も、知ったかぶりしないほうがいいってことを、あるとき学習しました。だけど、最後まで何となくギクシャクしちゃったという人、いるでしょう?
林:養老(孟司)先生なんか最後まで話がギクシャクしちゃって、そのことを友達に言ったら、「ついに“バカの壁”を乗り越えられなかったのね」って(笑)。
阿川:養老先生は誰に対してもああいう方だから。でもご機嫌が悪いわけではないのね。
林:養老先生と波長の合う、たとえばヤマザキマリさんみたいな人だと、会った瞬間から盛り上がるみたいだけど、私たち、全方位アンテナじゃなかったのね。
阿川:そうそう。
林:つまらない質問だけど、いちばん楽しかった人は誰ですか。話が合って楽しくて楽しくて、という人。
阿川:楽しかったという意味では、(笑福亭)鶴瓶さんが出てくださったとき。その場にいる編集者もライターもカメラマンもみんな抱腹絶倒ゲラゲラ笑って、小咄を独占して聞いてるみたいな感じだったんです。
林:どういう話だったんですか。
阿川:あるときジョギングをしていたら、猛烈におなかが痛くなって公衆便所を探したんだけど、どこにもない。困ったなと思いながら走ってたら、やっと公園の公衆便所を見つけて、急いで入ってホッとして用を足したら、なんとトイレットペーパーがない。どうしようと思って見回したら軍手が落ちてた。「これしかない」と思ってその軍手を手にはめて拭き取ったという話をなさったの。そのころは速記の人がいて、速記の人って寡黙で、どんな話でもニコリともしないで黙々と書き取ってるんだけど、その話を聞いてたら、吐き捨てるように、「汚い!」って言ったの。