「いいわよ、したいなら」
その前に、鼻から管を入れる経鼻経管栄養を試した。簡易で、不要になればすぐに外せると聞いたからだ。しかし母にとっては大きな苦痛だったようで、抵抗感を示したので途中でやめることになった。
胃から固形物などを入れる胃ろうも経管栄養の一つだが、「胃ろうでの延命はしないでね」と母がよく言っていたのを覚えていたので選択肢に入れなかった。結果、母は4月7日、腕の静脈に管を入れて栄養を取る、中心静脈栄養を始めた。
口から一切食べ物も飲み物もとらなくなって2カ月近く経つ(5月16日現在)が、母は24時間腕につながれた管から取る栄養だけで命をつないでいる。
相談した医療・介護関係者の多くは、「延命はたんやむくみなどで苦しみが増える」と消極的だった。でも、私は今回の選択を後悔していない。生きていてほしいという気持ちが勝っていたからだ。
ただ母からすればどうなのだろう。本当に良かったのだろうか──。
ここから先は嚥下や終末期医療に詳しい医師らと一緒に考えていきたい。
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今回、あきらめたくなかった「口から食べる」という可能性。延命を選んだ理由の一つもここにあった。
生きる力を引き出すための「口から食べるプロジェクト」に取り組む桜十字病院(熊本市)の医師、安田広樹さんはこう話す。
「肺炎を何回も繰り返して、つばも飲み込めない、意識レベルがすごく低い、という人以外は、ほぼほぼダメと考えることはないです。唾液(だえき)は1日に1~1.5リットルぐらい出ると言われています。1時間に10回も20回も吸引している方なんてそうそういないですよね。意識がしっかりしていて、多少の唾液が飲み込めていれば、少なくとも食べられる可能性はあります」
しかし、医療の現場では、誤嚥性肺炎で経口摂取が難しいと判断される患者は非常に多いという。
40年間、嚥下と摂食について取り組んでいる看護師(日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士)で、「口から食べる幸せを守る会」理事長の小山珠美さんは、
「医師は客観的な評価をするため、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査を重視します。なかには、この検査で口から食べることを禁止される場合もあります」
と話す。現在、急性期病院に勤めているが、「急性期病院で口から食べる訓練に取り組む病院は、まだ少ないです」という。