監察医として熱中症で亡くなった遺体にも接する機会がある、千葉科学大学危機管理学部保健医療学科の黒木尚長教授は「熱中症は『自分は体温が低いから大丈夫』『症状は出ない』と思い込んでいる人に起こりがち。体温が39度を超える前に、いち早く気がつかないといけません」と語る。

「特に、屋内熱中症に注意が必要です。電気代節約などの理由でクーラーをつけない人が多いですが、クーラーをつけないと、体温以上に室温が上がるケースはよくある。そして同じ気温なら、湿度が高いときのほうが熱中症になりやすいです。湿度が高いと汗が出にくく、体内の熱が高まって熱中症になる。うつ熱という状態です」(黒木教授)

 黒木教授は「屋内熱中症は特に高齢者に多い」と、注意を促す。

「たとえばうちの高齢の母親に『なぜクーラーをつけないのか』と聞くと、『暑いと感じないから』と言っていました。高齢者が風呂で亡くなるのと似た理由です。熱さを感じないから、熱い風呂にも長く浸かれる。本来は汗だくだくになり、交感神経の働きで動悸が高まったり、熱中症の症状として頭痛や目まいも起きたりするのですが、高齢者はそういう症状が出にくい。脳の温度が40度以上になって、気づいたときには手遅れになる可能性もあります」(同)

 部屋などの温度調節以外に、有効な熱中症対策はあるのか。

 学校の教育現場や中小企業などで、水分・電解質補給の重要性に関する啓発活動を展開し、熱中症の認知と理解の向上に取り組む大塚製薬は、体の内側から冷やして熱から守る「アイススラリー」による新たな熱中症対策を提案している。大塚製薬の担当者はこう語る。

「スポーツの世界では、運動前に一時的に体温を下げる『プレクーリング』といった概念が提唱されており、体の内側から冷却する方法としてアイススラリーを飲用する対策方法が用いられています。アイススラリーは、細かい氷の粒子が液体に分散した流動性のある氷で、通常の氷に比べ結晶が小さく冷却効果が高いという形状によって、熱中症の根本的な要因である深部体温に直接作用します。発汗によって体温を適切にコントロールすることができない状況において、新しい熱中症対策として活用が期待されています」

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