では、そんな魅力が働く人に伝わるにはどうすればよいのか。田中さんは、何よりも会社側の努力が必要だと指摘する。
たとえば、「あれもこれも」になりがちな管理職の仕事について「これはやるべき、ここからはやらなくていい」という線引きも含めて役割を明確にすること。その人がこれまで経験したことがない新しいポストへの異動も含め「成長の機会を増やしていくこと」。そして、管理職の報酬を他のメンバーとの差をきちんとつける形で上げること。そういった環境整備が大前提だと田中さんは言う。
■ポジティブな見方も
「さらに大事なのは、管理職に魅力を感じて働いている人の声を、社内に向けて発信する機会を作ることです。たしかに管理職になりたくないと言う人は多いし、その傾向は強まっている。でも『なってみたら意外とよかった』と話す人も少なくないんです。車座対話を開いてもいいし、新入社員研修の場で話すのもいい。ポジティブな見方をきちんと発信していってほしい」
神奈川県でメーカーに勤務する50代後半の女性も、会社が管理職の仕事の魅力を発信できていないことに不満を持つ一人だ。「私は管理職をぜひ経験したかったけど、年齢的に私はもう難しい。心残りです」と話す。
「私の会社はいまだに男性優位で、女性管理職は数%という難しい状況もあります。ただ、管理職に就いている人たちはと言えば『大変だ』『いいことなんか何もない』と愚痴る人ばかり。そんな負のオーラを出す人はそもそも管理職に向かないでしょ。若い人が管理職に良いイメージを持つはずがありません」
■次の世代を見すえて
人事権があり、会社の上層部と直接交渉ができ、他の人を評価することでモチベーションアップにも貢献できる。やりがいは多いはず。上の人間が管理職の良い面を見せ、それを見た若手が育っていかないと会社も成長しないと女性は言う。
「管理職は『なったら上がり』の職種ではありません。管理職になって何をやりたいのか自分なりにイメージして、自分のためだけでなく働く部下や組織が健全に成長できるよう考えて動ける人は、管理職になってほしい。何よりも『次の世代』のことを見すえることが大事。その考え方でつながっていかないと、社会も成長しないと思うんです」
(編集部・古田真梨子、小長光哲郎)
※AERA 2023年3月27日号より抜粋