そこで気になったのが、男性の希望の場所というのはいまどこにあるのかということなんです。
ブレイディ:イギリスの場合、ある意味でパブがそういう役割を持っているんですよね。そういう場所があったから私も入っていけたというか。先ほどの話に出てきたブードゥーラウンジに集まる人は、私の『ワイルドサイドをほっつき歩け』に出てくるおじさんたちに似ているのではないかと思うんです。つまり、集まる場所がある人たちですよね。そもそも、パブはパブリックハウスですから。
高橋:パブリックは公共という意味ですものね。
ブレイディ:パブに集まる人たちは家族ではないけど、それに準ずるものになっていて、もう何十年も前から知っているし、それこそ付き合ってきた恋人も互いの病歴までも知っている。そういうつながりや場所を持つことは大切ですよね。イギリスは貧困が大変な問題になっていますが、パブがハブ(中枢)の役割になっているんです。例えば、私が住んでいる地域は七面鳥を家で焼けないような貧しい方も多いから、クリスマスにみんなで集まれるようにお店を開けたり。そういうところを見るとイギリスも捨てたものではないと思うし、希望を感じます。家族ではないけど、お互いにきつい時は助け合おうよと誰かが言って立ち上がるところに。
政治的なイデオロギーでつながっているわけではないんです。たまたま同じパブに通って何十年も前から知っている、ただそれだけ。でも、そういう場所があるというだけで希望を感じるし、人間はそうやって生き延びてきたのではと思いますね。
■男性は孤立してしまう
高橋:ぼく、ブレイディさんの『ワイルドサイドをほっつき歩け』がすごく好きなんだけど、あれっておっさんしか出てこない! 日本でおっさんを書くのは難しいんですよ(笑)。だって、おっさんたちが集まる場所がないから。あれはイギリスの文化だよね。
ブレイディ:パブですよ、パブリックハウスのおかげですね。