■誰にも相談できない
厚生労働省の調査によると、2022年の保安職業従事者(警察官・海上保安官・消防員など)の自殺者数は71人。そのうち半数以上を占める41人の自殺の原因は、職場の人間関係や職場環境の変化、仕事疲れ(長時間労働)といった勤務問題だった。
自殺者数は19年の118人から20年は108人、21年は102人と緩やかに減少していたが、警視庁の関係者は「今年は異常に多いのでは」と懸念を強める。
市民を守る警察官が、なぜ自らの命を絶ってしまうのか。
自殺した警察官の裁判を担当したことがある市川守弘弁護士は「戦前の陸軍と同じような理不尽さが、警察内部で根付いている」と話す。
「上意下達で、理不尽なことにも従わなければいけないことがある現実は、権力機構では多いのです。体罰は体力を作るために必要だという慣習も、一部にあります。例えば私のところには、ミスをしたから勤務中に交番内でスクワット100回、腕立て伏せ200回を上司に命じられたとか、剣道の練習でわざとのどを突かれたとか、こんな相談が寄せられています」
兵庫県警では15年9月末からの1カ月の間に、20代の警察官が3人も連続して自殺するという異常事態が発生した。市川弁護士はその事件のなかで、当時24歳だった機動隊員の遺族が「自殺の原因はパワハラだ」として県に賠償を求めた裁判を担当した。
神戸地方裁判所は22年6月、ミスがあった書類に「ボケ」と書かれた付箋が貼られるなど、上司からのパワハラ行為があったことを認定。県に100万円の支払いを命じる判決を出した。しかし、男性隊員は亡くなる3カ月前にうつ病を発症していたものの、パワハラと自殺との因果関係は認められなかった。
市川弁護士は話す。
「機密情報を扱うし、内部のことだから家族に言うな、相談するなとも言われます。そのため、パワハラにあっていることも相談できずに抱え込んでしまうのです。特に20代は今まで自分が経験したことのない価値観に直面し、思い詰めることが多いのです」