「次の世代のことを考えたら、誰かが片をつけないといけないことだと思う一方で、『もしかすると両親に(実家を手放すことに対して)イエスしか言わせない状況をつくってしまったんじゃないか』と悩んだ時期もありました」(同)

 葛藤を抱えながらの実家じまいの準備だったが、次第に「何かを大事にすることは、必ずしも“取っておく”ことだけじゃない」と思うようになった。いわく、家も物も、大事にするということは、どれだけ愛着を持って使い倒すかどうか。その視点で実家を見ると、「家族みんなが愛着を持って、十分に使い倒せた」と感じた。

 そこから売却までは、地元で不動産業を経営する親戚のサポートもあり、順調に進んだ。

「実家じまいを含め、家にまつわる事柄は、家族の問題と抱え込みすぎてしまっている人が多いですが、私は親戚にサポートを求めてとても楽になれた。第三者に入ってもらうことで、負担がぐっと軽減されることもあると思います」(同)

 中古物件を売却するには、家の中の物をなくして見栄えを良くすることが大事だ。2年かけて物を減らしてはいたが、最終的には家具や本などを中心に、業者に処分を依頼し、処分費用として約100万円がかかった。売却に出した期間は、1年未満。売却が決まったのは、父親が亡くなった数カ月後のことだ。

 西崎さんが今、大切に手元に置いているのが、実家を描いた絵。父親が収集していた絵画の処分に困ったとき、「こんなに素敵な絵なのだから、新たな場所で光を当ててほしい」と、絵を描いた画家に「これまで購入した絵画を、無料で引き取ってほしい」と依頼した。実家の絵は、「その代わりに、父が好きだったあなたの絵で、実家を描いてほしい」と相談し、できあがった絵だ。

「大切なものは、必ずしも形にこだわらなくても、みんなの記憶の中に残れば良い。こうして形を変えて、思い出を引き継いでいくのも一つの選択肢だなと思います」(同)

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