夫の扶養から外れないように、一定の所得以下に抑えて働く「年収の壁」。女性の就労を阻害し、時給アップを阻む要因とも指摘されている。AERA 2023年3月13日号の記事を紹介する。
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「“年収縛り”があるために能力を発揮できない女性が何人もいて悔しいです」
こう打ち明けるのは福利施設の運営・管理業務をしている神奈川県の女性(60)だ。
「優秀な女性スタッフが多く、本人たちはもっと働きたいと言っているのに、扶養家族から外れるのを避けたい、という意識がネックになっているのをひしひしと感じます。もっと長時間働いてもらえれば、お互いにハッピーなのに……」
職場は「年収の壁」を意識して働くパート勤務女性が半数超。このため、毎月のシフト調整や人員確保に忙殺されるという。
「年収の壁」とは、配偶者に扶養されている人の年収が一定額を超えると税金や社会保険料の支払い、配偶者の勤め先から支給される家族手当の支払いの対象になるかならないかの境目を指す。たとえば、年収130万円を超える「130万円の壁」。この基準以上の年収があると、扶養から外れ、自ら医療や年金の保険料を納めないといけない。そのほかにもいくつかある。岸田文雄首相も1月の施政方針演説や衆院予算委員会などで見直す考えを表明したが、「年収の壁」の解消は簡単ではない。女性は言う。
「毎月のシフトを決める際、年収が103万円以内に収まるよう月8万円を超えない賃金で勤務調整するため、その分、人事管理が煩雑になり非効率です。人手も余分に必要になりますが、条件に合う人はなかなか見つかりません」
「年収の壁」は時給アップを阻む要因にもなる。時給が上がれば、「年収の壁」を超えない範囲で働ける時間が短くなる。事業者が時給を上げるほど労働者の働く時間が短くなり、人手不足が加速する事態を招くのだ。
冒頭の女性は「年収の壁があることで、同一条件で働いている年収縛りのない人の時給も上げにくい面があるのは理不尽」と嘆き、こう訴えた。
「“女性活躍”をうたうなら、国のモデル設定にかなう一部の人たちだけが有利になる制度は廃止すべきです。年収の壁は世帯年収を下げているとしか思えません」
全雇用者に占める非正規雇用者の割合は4割近くを占め、なかでも配偶者のいる働く女性は6割が非正規で働いている。非正規で働く女性の所得増が世帯所得増のカギを握るのが現実だ。(編集部・渡辺豪)
※AERA 2023年3月13日号より抜粋