ブロディはマスカラスと違って自分の形から外れたことを要求されたり、やらされたりするとカチンとして頑として受けない。そういう面ではマスカラスよりも偏屈だったね。「約束が違うじゃないか。こうすると言ったよな? なに? 約束していない? じゃあ嘘をついたのか! そんな人間は信用できない!」という調子で、一度こうなったらもうダメ、全然話にならない。ブロディには馬場さんも手を焼いていたけど、一度新日本プロレスに厚遇で迎えられたのに全日本に戻ってきたこともあった。普通は待遇がよかったら、多少のことは我慢するけど、ブロディはそれができなかったんだろうね。これには馬場さんもホッとしたというか、しめしめと思ったんじゃないかな。
気難しさという面ではマスカラスとブロディの2人が強烈すぎて、ほかの選手は小物に見えちゃうよ(笑)。そんな、2人をうまく扱っていた馬場さんはやっぱりすごいね。きっと、葉巻で煙に巻いていたんだろう……。
気難しさとは逆に、紳士的だったレスラーで真っ先に思い浮かぶのはニック・ボックウィンクルだね。AWAのチャンピオンで、何度か来日してジャンボ鶴田と王座を争っていたんだが、この人は紳士だったよ。人と接するときはいつもにこやかで、ホテルのフロントでも、普通のレスラーは「おい、部屋のキーだ!」という感じだけど、ボックウィンクルは「キーをください」と言える人だった。
考え方が普通というか、ビジネストークがきちんとできる人という感じかな。ほかのレスラーのように「俺が! 俺が!」と前に出るタイプでもないし、バーで馬鹿みたいな飲み方をしたり、一人で席を3つも4つも使って我が物顔でいたりということはまったくなかった。どんな人にも腰が低くて「よくこんな人がプロレスで生活の基礎を築いているなあ」と感心したもんだ。
リック・フレアーも紳士的だったね。普段は言葉遣いも丁寧で「Yes, sir! 」や「pardon me」と相手をちゃんと立ててくれて、優しかったよ。ただ、酔っぱらってハチャメチャするのが玉にきずだったな……。言葉遣いや物腰は紳士なんだけど、やることがレスラーだったんだよ。自分をすごく見せることへの意識が強くて、モテるところを見せようと女の子を4~5人はべらせて飲んだり、そのことで家に帰ってから奥さんに怒られたり(笑)。普段の振る舞いは紳士的だったが、紳士度はボックウィンクルに比べると一段落ちるね。