妻と子どもとの関係は元には戻っていない。「許してくれたとは思っていません」。ただ、単なる同居人と化していた状況からは抜け出せたと感じている。

 食卓を囲みながら「牛乳飲む?」などと、子どもから声をかけられることがうれしい。自室で勉強していると、リビングでテレビを見ている妻の笑い声が聞こえてくる。飲み続けていた時に、妻の笑い声を聞いたことはなかったはずだ、と今は思う。

 大竹さんは、飲み方が悪化していた時、妻から「自分自身を変えて」と何度も怒られたという。減酒に取り組み、以前より頭がさえた今、何を思うのか。

「飲酒欲求が止まらなくなっているときに自分を変えることは難しい。家族に後ろめたくても、いくら後悔が襲っても、飲むという行動をやめられませんでした。自分で自分を変えた、ということではなく、専門の医療機関にかかって今の自分の姿や飲んでいる量を客観的に見たり、お酒に対する自分の考え方が間違っていたことに気が付くと、勝手に自分の行動が変わっていくのではないかと感じています」

 倉持院長いわく「減酒治療は細く長く続けていくものです。まずは飲み方に問題があることを自覚して減酒を始めてみる。お酒が減ってくると、頭がすっきりしたり、やる気が出たりと、生活のさまざまなことが良い方に向かう。なんだ、しらふの方が全然いいじゃないか、ということが分かれば、量は飲まなくなる。その状態を保っていくことが大切なのです。依存症患者とその疑いがある人は300万人もいると推計されていますが、アルコール依存は『自分は違う』といいたがる人が大半です。自分の飲み方にちょっとした不安を感じたら、まずは気軽に受診して欲しいと思います」

 毎日、アプリにお酒を飲んだかどうか。飲んだならその量を記録して自分を見つめ、元に戻らぬように月に一回クリニックを訪れて主治医に状態を話す。減酒に取り組む大竹さんの日常はこれからも続いていく。(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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