東日本大震災の被災地では、各地の災害ボランティアセンターが受け入れた人に限っても、のべ150万人以上の災害ボランティアが活動した。NPOなどが独自に派遣した分を含めれば、約550万人にのぼるとされる。それ以降も、2016年熊本地震で約12万人、18年西日本豪雨で約26万人、19年台風15号・19号で約21万人(いずれも災害ボランティアセンター受け入れ分)が被災地に駆けつけた。新型コロナ禍以降はボランティアの受け入れを県内や市町村内在住者に限るケースが多かったが、「災害=ボランティア」の図式はすっかり社会に定着したと言えるだろう。
■対応できない案件
一方、前原さんのような「災害支援のプロ」の存在はあまり知られていない。しかし、公的機関にも一般ボランティアにも担うことが難しい被災地のニーズにコミットし、課題解決に奔走(ほんそう)する彼らは、今や被災地に欠かせない存在になっている。
多くの災害では、住民はもちろん、災害対応に当たる行政や社会福祉協議会にとっても「初の被災」だ。マニュアル通りには対処できない課題も少なくない。避難所をどう運営するか、災害ボランティアの受け入れ拠点をどこに設けるか、被災者からのニーズにボランティアをどう差配するか。それらの疑問に答えられるのは、数多の災害現場を経験してきたプロたちだ。
そして、被災者からのニーズのなかには、災害ボランティアセンターが受け入れる一般ボランティアでは対応できない案件も多い。例えば一般的な地震被害の場合、被災者から寄せられる代表的な依頼に「家屋内の片付け」がある。倒れた家具を起こし、散乱した荷物を整理し、破損した家財は災害ごみとして搬出する。それ自体は体力さえあれば多くの人が担うことができるだろう。しかし、熊本地震の際、こんなケースがあった。災害支援団体レスキューアシストの代表、中島武志さんが言う。
「ある災害ボランティアセンターには、被災者からの片付けの依頼が山のように寄せられていました。連日ボランティアも大勢集まった。しかし、大半のボランティアを活動先に派遣できずに帰ってもらっていたんです。片付けの依頼があった家屋の多くに『赤紙』や『黄紙』が貼られていたからです」
■屋根にブルーシート
「赤紙」「黄紙」とは、応急危険度判定による「危険」(赤)や「要注意」(黄)を示す紙のこと。建物が地震被害にあうと、応急危険度判定士が外観を目視し、危険性を判定して赤・黄・緑のいずれかの紙を外壁に貼り出す。人命にかかわる二次被害を防止するためで、家主に断りなく行われる。黄や赤が貼られた家屋には一般ボランティアの派遣を見合わせるケースが多い。