災害が起こった時、被災地のニーズにコミットし、集まったボランティアを差配する災害支援のプロたちがいる。まだ一般には広く知られていないが、必要不可欠な仕事を請け負っている。AERA 2023年3月6日号から。
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2月18日、静岡市葵区にある番町市民活動センターには大学生から70代までの36人が集まり、前原土武(とむ)さんの講演に耳を傾けていた。復旧や復興に至る過程、支援者の役割などの話に大勢が頷(うなず)く。聴衆には去年9月の台風15号で被災し、前原さんの支援をうけた人もいる。
前原さんは全国でも数少ない、災害支援を専業とするプロフェッショナルだ。去年9月の水害後は県の社会福祉協議会が設置する静岡県災害ボランティア本部の要請を受けて現地で活動し、被災状況の調査、一般ボランティアの窓口となる災害ボランティアセンターの立ち上げ支援、ボランティア団体の活動先調整などに奔走した。緊急的な活動が落ち着いた現在は地元支援者の育成などに取り組んでいる。
「緊急期には大量の支援者を受け入れることで復旧が早まります。その後必要になる生活再建やコミュニティーの支援は、地元の支援者が担うことで多彩で長期的な活動ができる。静岡はちょうど移行期です。私たちが前面に出るとどうしても頼られてしまうので、今はあえて『手を出さない支援』をしています」
■スコップを捨てた
前原さんは東日本大震災で初めて災害ボランティアを経験。当初はスコップを持って泥かきに走り回ったが、殺到するボランティアのマンパワーを生かし切れない現実を目の当たりにした。ニーズを集約し、ボランティアを差配する必要性を感じ、「スコップを捨てた」という。
「自分ひとりのスコップを動かすより、千人のスコップを調整する方が復旧・復興に結び付くと思った。コーディネーターは災害現場に必要な役割です」
同年、ボランティア仲間らに「災害支援で生きていく」と宣言。12年で30近い災害の被災地に入り、支援活動にあたってきた。年間300日近くを被災地で過ごす。収入は自身が運営する団体の給与が主で、講演会の謝礼や寄付、助成金などがもとになっている。被災地の社会福祉協議会などと契約し、報酬を受け取ることもある。最初の数年は食うにも困ったというが、今では第一人者だ。