「元の木阿弥とは、このことですよ。中学受験に500万円以上をかけたのに、息子は地元中学に通学した。結局、あいつは怠け者だったってことですよ」

 その頃から妻と息子が結託し、信雄さんは疎外されているのを感じるようになる。

「私が家に帰って来ると、リビングから人がいなくなるんです。最初は私に合わせる顔がないからそうしているのかと思っていたのですが、2人は私を避けていた」

 高校進学のときも、信雄さんは偏差値65以上の都立の名門高校をリストアップして息子に渡した。だが、すでに信雄さんの存在感はなくなっていた。

「妻からは“息子に決めさせてほしい”と言われ、単願推薦という制度で、自由な校風の私立の男子校に行っています。偏差値は62くらいですね。でも、合格実績を見ると、早慶に1~2人、GMARCHすら30人程度。あのまま私立中学に行っていれば、もっと高みを目指せたのにと思います」

 信雄さんが「わが子のために」とはまった中学受験沼は、これから家族の将来にどんな影響を及ぼすのだろうか。それが地中深くに埋まった宝物なのか、もしくは地雷なのか、それは誰にもわからない。

●沢木文(さわき あや)
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。

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