【アルゼンチン】
そのブラジルの対抗馬となりそうなのが、アルゼンチンだ。コパ・アメリカでは宿敵ブラジルを下してタイトルを手にし、直近35試合無敗と絶好調。6月にはEURO王者イタリアに3-0と完勝し、こちらも完璧な仕上がりでカタールへ臨むことになる。
常に課題とされてきた守備陣だが、クリスティアン・ロメロやニコラス・オタメンディ、リサンドロ・マルティネスとセンターバックの質は申し分なく、守護神にもエミリアーノ・マルティネスが入ってからチームも安定。それぞれ所属チームでも好調だ。最前線にはラウタロ・マルティネスや初の欧州上陸でインパクトを残すフリアン・アルバレスと駒も揃っている。パウロ・ディバラの欠場や負傷中のアンヘル・ディ・マリア&レアンドロ・パレデスのコンディションには不安もあるが、大会までに間に合わせてくるはずだ。
そして、リオネル・メッシである。史上最高の選手として7つのバロンドールを手にしてきた彼はこれまで、アルゼンチン代表としてどうしてもタイトルに届かず、計り知れない重圧にさらされてきた。だが昨年、因縁の相手ブラジルを下してのコパ・アメリカ初優勝を経験。試合終了の瞬間、すべての苦しみから解き放たれたような笑顔でチームメイトと歓喜する姿は、サッカー史に残る美しい光景だった。
重い荷物をおろした今季の彼は、パリ・サンジェルマンで最初の15試合で9ゴール10アシスト。本人も言うように、以前よりもゴールよりチャンスメイクを意識するスタイルへと変貌し、35歳にして進化が止まらない。そして何より、メッシにとって最後のワールドカップだ。常人では想像もできないようなメンタリティで挑んでくるだろう。
また、リオネル・スカローニ監督の手腕も特筆すべきだ。協会のいざこざに揺れた2018年にアンダーカテゴリーから昇格したが、指揮した49試合で33勝(12分け4敗)。96得点29失点とその成績は目を見張る物がある。そして最大の功績は、「メッシがいてチームがある」から「チームがあってメッシがいる」という状態に作り上げたこと。不在でも十二分に機能するチームに、史上最高の選手が加われば、止められるチームはそう多くない。
故ディエゴ・マラドーナ氏を擁して優勝した1986年大会から36年。天国で見守る英雄へ、現世の英雄がトロフィーを届けることになれば、それは美しい物語として永遠に語り継がれることになりそうだ。