――最初は「非匿名提供」だったのがあとから心変わりして「匿名提供」にしたいといった場合、それは可能ですか。
「それはできません。最初の決断がすべてです。逆に、顧客から匿名ドナーについての情報開示が要望されることもありますが、匿名ドナーを選んだ以上それはできません。もちろんデータベースには指紋を含めすべての個人情報が入力されています。精子提供するときに指紋の一致も行います。本人確認の間違いは許されないからです」
――クリオスがドナーに対して非匿名提供してもらえるよう説得することもあるのでしょうか。
「プロのカウンセラーが、カウンセリングを行い、自分が非匿名か匿名のどちらのタイプに向いているか、判断するのを手伝います。しかし非匿名にするよう説得することはありません。決断はあくまでもドナー側です。非匿名を選んだ場合、子供が18歳になったときにドアがノックされる可能性があることも説明します。ドイツでも法律が変わって、子供が生まれたら、親は役所に連絡してすぐにドナーのIDを得られるようになりました」
――私はサンフランシスコの「23andMe」という世界的に有名な遺伝子検査会社で検査をしましたが、「遺伝的につながっている」という「親戚」が世界で400人以上いることがわかっています。名前も住んでいる地域も顔もわかっている人がいます。そのように今は簡単に遺伝子検査が安価でできるので、匿名提供は事実上できないと言っても過言ではありません。
「デンマークでは他国と比べると、精子ドナーであることについてスティグマと捉える意識がかなり低いと思います。ドナーになるのは利他的な行為であって、子供ができない人を助けているというのが一般的なデンマーク人の見方です。献血や臓器提供は善意で行いますから誰も非難しません。それと精子提供も同じであるべきです。精子提供もこれらと同じようにヒーロー的な行為とみられるべきです。子供を持つのが困難な人を助けているのですから」