クリオスCEOのピーター・リースリヴ氏(写真:大野和基氏提供)
クリオスCEOのピーター・リースリヴ氏(写真:大野和基氏提供)

 北欧で成功した精子提供ビジネスの中でも、もっとも成功し、世界最大の精子バンクとして知られるのが「クリオス・インターナショナル」(以下、クリオス)だ。1980年代、ビジネススクールに通う大学院生だったオーレ・スコウ氏は独学で精子凍結の技術を確立し、民間病院での「精子需要」というニーズに見事マッチした。現在、スコウ氏からCEOを継いだピーター・リースリヴ氏に、同社の「ドナー選び」などについてジャーナリスト大野和基氏が聞いた。大野氏の新刊『私の半分はどこから来たのか――AIDで生まれた子の苦悩』(朝日新聞出版)から一部抜粋・再編して紹介する。

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■ドナーになるための厳しい検査

 ドナーとして申請できる年齢は18歳から45歳までだが、合格するには厳しい検査を経なければならない。最も重要な要素は精子の質が良いことだ。インターネットから申請すると予約をとってクリオス本部まで足を運び、まず精子の質を検査される。

「モティリティ(motility=運動性、運動率)が最初の決め手になります。方向性をもって生き生きとして動いていないといけません。そのあと1ミリリットル当たりの精子の数です。これは機械が数えてくれます」とリースリヴ氏は説明する。

 身体検査以外では、家族の既往歴も詳細に聞かれる。さらに重要なことは46種類の深刻な遺伝病の検査だ。これはアメリカのACOG(米国産科婦人科学会)のガイドラインに従っている。この検査で自分でも知らない遺伝病がわかることもあるという。ただ遺伝子検査の結果でわかった遺伝病について、知らずにいる権利もあるという。

「今ドナーになるための検査で、遺伝病がわかることが大きな問題になっています。治療法がない遺伝病の場合、それを知ることで一生その事実を背負って生きていかなければならないからです。知りたくないと言われれば、教えません」(リースリヴ氏)

 精子は最短でも半年間、マイナス196度の超低温で液体窒素を使って凍結されてから解凍されるので、解凍後の質も同じように調べられる。実際に使われるのは解凍後の精子だ。これは極めて重要なことである。凍結期間は基本的に6カ月以上だが、イギリスは3カ月まで短縮したので、イギリスに凍結精子を送る場合は3カ月以上凍結した精子を送ることになる。

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具体的な内容についてのリースリヴ氏との一問一答