しかし、梅が13歳になった時に悲劇が起きる。美貌の梅を”買おう”とした侍が、梅に腹を立て、彼女を生きたまま焼き殺そうとしたのだ。瀕死(ひんし)の妹を抱きしめて、妓夫太郎は叫ぶ。

「何も与えなかったくせに取り立てやがるのか 許さねえ!!許さねえ!! 元に戻せ 俺の妹を!! でなけりゃ神も仏もみんな殺してやる」(妓夫太郎/11巻・第96話「何度生まれ変わっても<前編>」)

■妓夫太郎に手を差し伸べた「雪の日の来訪者」

 雪の日に竈門家を訪れたのは「鬼の始祖」で、彼が炭治郎に与えたのは大切な家族の「死」と「妹の鬼化」という悪夢のような呪いだった。

 一方、雪の中で力尽きかけた妓夫太郎の元には、「優しい鬼」が訪れる。遊郭で女を喰っていた上弦の鬼・童磨が通りかかり、美しい顔に笑みを浮かべながら、妓夫太郎に手を差し伸べた。

「どうした どうした 可哀想に 俺は優しいから放っておけないぜ」(童磨/11巻・第96話「何度生まれ変わっても<前編>」)

 これまで妓夫太郎は他者から助けを申し出られたことはなかったはずだ。妓夫太郎はこんなふうに過去を振り返っている。

「誰も助けちゃくれない いつものことだ いつも通りの 俺たちの日常 いつだって助けてくれる 人間は いなかった」(妓夫太郎/11巻・第96話「何度生まれ変わっても<前編>」)※「人間」には強調のための傍点

■「生」と「死」をあらわすモティーフ

「生と死」をテーマとする昔話の世界では、「生命」の象徴として「春」と「昼(朝)」が記号的に使用される。それに対して、「冬」と「夜」は「休眠」「停止」「死」を意味する。

 その視点から考えると、『鬼滅の刃』の世界観は、実に「昔話的」であるといえよう。『鬼滅』の物語は「雪が降る冬」に始まり、「夜」に鬼と戦い、「朝」が来ると“普通の毎日”が戻ってくる。

 さらに、興味深いのは、鬼の中でも突出した実力を持つ者に、「夜」「氷」「雪」に由来する能力が含まれる点だ。彼らは無惨のために、そして自らが鬼として生きるために、「夜」と「冬」を守る。寒い雪の夜に、妓夫太郎たちの元に童磨が訪れたのは偶然ではない。

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虫を食べる生活から「人を喰う」鬼へ