写真はイメージ(GettyImages)
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 だが夫の両親は、「息子が名字を変えるなんて許さない」「結婚して女性が名字を変えるのは当たり前」だと言い張った。一連のやり取りの中で、夫の両親から智子さんへの印象が悪くなり、風当たりが強くなったのを感じた。

 思えばそれまでも、夫の家に遊びに行ったときに違和感を抱くことがあった。

 家の中では父親が一番偉く、専業主婦である母親は、常に父親に気を使っているように見えた。家のすべてのことを「母親がやって当たり前」という父親の態度は、亭主関白そのもの。共働きのサラリーマン家庭で、父親も家事や子育てに比較的協力的な家庭に育った智子さんには、夫の両親のあり方がとても窮屈に映った。

 夫のことは好きだ。だが名字の一件があって、ますます「夫の家の“嫁”になりたくない」「結婚はしたいけれど、夫の家と距離を置きたい」という思いが強まった。

 智子さん自身も仕事を持ち、経済的な面でも夫と対等な立場にある。それなのに「名字を変える」ことが「相手側へ合わせる」「〇〇家に入る」ということを感じずにはいられなかった。夫もまた、自分の両親を敬遠していたが、自分が名字を変えるところまでは踏み切れなかった。

 そんななかで見つけたのが、婚姻届けを出さない“事実婚”という選択肢だった。二人とも、できることなら婚姻届けを出して、「普通に結婚したかった」(智子さん)。それによって、「どちらかの名字を捨てることになる」。

 逆に言えば、婚姻届けを出さなければ、それぞれがこれまで通り自分の名字を名乗ることができると考えた。届けを出さないことで、夫の家との距離も保てるような気がした。

「婚姻届けを出さずに、結婚と呼べるのか」「法的に認められていない結婚はありなのか」と揺れる思いもあったが、最終的には「自分たちにとって納得のいく形を大切にしよう」と事実婚を選んだ。届けを出さないことへの不安もあったが、「不便が生じたら、そのときに考えよう」という話になった。

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