写真はイメージ(GettyImages)
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 夫の両親は、事実婚の決断に対し、怒りを超えてあきれかえっていたが、夫も智子さんも「放っておこう」となった。内心複雑そうだった智子さんの両親からは、「結婚式を挙げて、ちゃんと“夫婦”としているんだったらいいよ」と言われた。

 婚姻届けの提出以外に、周囲からきちんと夫婦として認めてもらうための手段——智子さん夫婦にとって、それは結婚式であり、披露宴だった。実際に、大勢を招いて盛大に式と披露宴を行ったが、その場で自分たちから事実婚であることはあえて言わなかった。せっかくのお祝い事に、どこか水を差すような気がしたからだ。

 衝撃を受けたのが、披露宴が終わった後に手渡された、式場からのサプライズプレゼント。そこには「〇〇様ご夫妻」と、当たり前のように夫の名字が書いてあった。

「せめて事前に、結婚後の名字の確認ぐらいしろよ……と思いました。だけど一方で、夫婦は夫の名字を選ぶのが当たり前だという社会通念を物語っているようで、その同調圧力を、やはり怖いなと思いました」(智子さん)

 その日から5年——。現状では事実婚に対し、周囲から否定的な反応を受けることは思った以上に少ない。

 事実婚を選んだことで、友人から「旦那さんがかわいそう」と言われたことがあったが、「法律に則ってないというだけで、法を犯しているわけではない」と説明した。無論、よくは分かっていないようだった。

「以来、自分の中で、相手を選んで話すようになったかもしれません」(智子さん)

 事実婚がいかにマイノリティーな選択肢なのか、思い知らされる日々でもあった。夫の親戚からはいろいろと揶揄されているようだが、「“法的”な嫁ではない」という事実によって、懸念だった夫の家とも、堂々と距離を保つことができているという。

「周りと違う選択をしたことで、気持ちが大きく揺れることもある。でもそんな経験を重ねるうちに、良くも悪くもメンタルが強くなりました」(智子さん)

 目下の悩みは、子どもが生まれたら法律婚をするかどうするか。まだ妊娠には至っていないが、夫婦ともに子どもが欲しいという思いは一致している。

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子どもに何か不利益があったらと心配